今日、私は小学館の「GOAT」という新しく創刊される文芸誌の創刊号に掲載される、小説家の歌会の立会人というオファーを受け、同じ歌人兼小説家としても大活躍、この欄でもお馴染(なじ)みイケメン大金持ちゲイの小佐野彈さんの別荘に伺った。集まったのは芥川賞作家の朝吹真理子さん、高瀬隼子さん、気鋭の書評家スケザネさん、2人の編集者さん、カメラマンさん。初めての文芸雑誌での対面のお仕事、さらには今まで雲の上の存在と思っていた人たちの集まり。

 歌会がはじまると、歌人とはまた違った作品や批評が飛び交う。その批評の多彩さに驚きながらも歌会は進んでいく。数年前なら違う畑だから何もいえないと卑屈になって何もできなかっただろうが、ここ数年いろんなレクチャーの現場に出させていただき、なんとか挙動不審は避けられた(と信じたい)。

 歌会が終わると小佐野家のお手伝いさんが現れ、手早くすき焼きの準備をしてくれる。このところ粗食だった身に、とんでもなく豪華な夕食だ。お肉も自分の家でするすき焼きとは段違いの柔らかさ。うっとりと味わい、皆大満足だ。「おいしいね」「おいしいね」と声は飛び交う。

撮影・三品鐘

 今回、バリューというテーマで執筆している。バリュー。これは一歩間違えれば、自分に価値があると信じて天狗(てんぐ)になるという意味もあるだろう。しかしもう一つの捉え方もある。それはあたえられた価値を背筋を伸ばして受け取るということだ。今回、初めて文芸誌の企画に呼ばれたのも、私の肩書には身にあまる素晴らしいメンバーとご一緒できたのも、自分では絶対買えないようなおいしいすき焼きを味わえたことも、私に価値を感じてくれて差し出されたもの。だったら背筋を伸ばして、笑顔で、最善を尽くすことが一番の恩返しだ。

 とそんなことを言っている間にも小佐野家に一泊することになり、ここ自由に使っていーよー、とホテルより豪華なバスルームに案内される。溺れそうな広さのジェットバス付きの浴槽に浸(つ)かりながら、ここまでしてもらえるのはどうしてだっけ、とふと正気に戻る。でもそれは今考えてもしょうがない。私が与えてもらったバリューを超えるバリューで恩返しするしかない。起きたら小佐野さんに笑っておはようを言おう。今あげられるバリューは心からの笑顔と感謝だけだけど、でも、待っててね。


 岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。

 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

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