富山大の研究チームは15日、心不全治療に使われている強心剤にがんの転移を抑制する働きがあることを発見したと発表した。がん転移に対する治療薬の開発を目指すという。成果は英科学誌に掲載された。
転移は、最初にできたがん組織(原発巣)から剥がれた細胞が血中で体内を巡り、別の臓器に生着することで引き起こされる。チームは胃がん患者から採取したがん細胞を調べた。胃にあるがん細胞では「α3型ナトリウムポンプ」というタンパク質が細胞内部に存在するのに対して、胃から剥がれて血液中を浮遊するがん細胞では、このタンパク質が細胞膜に移動していることを突き止めた。
がん細胞が剥がれる際、このタンパク質が細胞膜に移動することで、がん細胞を保護し、細胞死を防ぐとみられる。
さらに胃がんマウスに強心剤「ジゴキシン」を投与すると、このタンパク質の細胞膜への移動が阻害されることも確認。血中に浮遊するがん細胞の数が減り、肝臓への転移も抑制されたという。
富山大の藤井努教授(56)は「がん治療の大きな一歩となる研究成果だ」と話した。