笠松2戦目、岡部誠騎手が騎乗し4着でゴールしたレディアイコ。引退が決まり、ラストランになってしまった

 「アイコちゃん、小さい体でよく頑張って走ったね」。地方、中央を通じて現役競走馬ではただ一頭、オグリキャップの孫としてファンらの熱い視線を浴びていたレディアイコ(牝4歳、後藤佑耶厩舎)。笠松競馬場の新たなアイドルホースとして初勝利を期待されていたが、脚の骨折のため、夢の途中で競走馬生活を終えた。「ウマ娘」人気を追い風に、聖地巡礼で訪れる若いファンも増えていたが、偉大な祖父の遺伝子を受け継ぐスター候補を失った。

 レディアイコは北海道新冠町の佐藤牧場(佐藤信広代表)で生まれ育った。父モーリス、母ミンナノアイドルで、母父がオグリキャップという血統。ミンナノアイドルはオグリキャップ最後の産駒で、牧場主で馬主でもある佐藤代表が「オグリキャップの血脈継承を」と繁殖牝馬として情熱を注いで育ててきた。

 JRAでデビューし、岩手競馬を経て、今年1月に笠松競馬へ転入したレディアイコ。レース2戦を経た3月下旬、笠松競馬場での調教中に脚を骨折していたことが判明。残念ながら引退することが決まった。佐藤代表は「競走馬として復帰しようとしても1年ほど先になり、体力的に厳しいです。馬体重が400キロ前後と体が小さいことから、繁殖入りも諦めて、乗馬への道を歩んでいくことになります」と、つらい胸の内を明かし、レディアイコのセカンドライフでの幸せを願った。

 笠松での調教で、レディアイコに多く騎乗していたのが、若手の長江慶悟騎手。所属厩舎の馬でもあり、笠松デビュー前から攻め馬に励んできた。「普段と変わりなかったんですが、厩舎に戻ってきて、厩務員さんが馬の体を洗って小屋に返すときに、アレッとなったそうです」。攻め馬中には「全く気が付かなくて、なんでかなあと。元気が良くて張り切ってくる馬でした。引退することになって、なんか悔しいですね」と愛馬のリタイアを残念がった。

 1歳上の兄ミンナノヒーローは昨年7月、盛岡でのレース中に故障して永眠しており、兄妹の相次ぐ戦線離脱は、オグリキャップファンたちを悲しませた。    

レディアイコと後藤佑耶調教師(中央)、長江慶悟騎手(右)ら=笠松競馬・円城寺厩舎

■先頭に立った最後の頑張り、完全燃焼の走り

 岡部誠騎手が騎乗した前走(3月17日)がレディアイコのラストランになってしまった。向正面から積極策で先頭に立って3~4コーナーを回り、見せ場たっぷり。勝利を期待させた頑張りは、最後の力を振り絞っての完全燃焼といえる走りだった。「地方では一番いいレース内容」というファンの声もあったが、最後の直線では燃え尽きて4着でのゴールイン。レディアイコを預かってきた後藤佑耶調教師は「(3戦目を走っていたとしても)勝利までは厳しかったのでは。馬体重が少なくて、繁殖牝馬になるのは難しいそうです」と。大切に世話をして「けがなく無事に走ってほしい」と愛情を注いできた厩務員さんにとっても残念な引退となった。

 けがは左後ろ脚の球節で、ひびが入った状態。人間でいえば、くるぶしの辺りで、ギプスをはめて安静にしているしかないそうだ。笠松の厩舎から1カ月間は動かさない方がよく、輸送することもできないという。全治6カ月の診断で、競走馬として復帰するには、さらに4、5カ月かかり、体力的にも丸1年近くトレーニングできないことから、競馬そのものを諦めることにしたという。

■「400キロ前後で繁殖入りは厳しい」と苦渋の決断

 馬体的に小柄で、攻め馬からテンションが高くなりがちだった。笠松転入後2戦の馬体重は401キロ、395キロで、岩手在籍時より10キロ減っていた。生産牧場としては「繁殖牝馬として血統をつなぐためには馬体重が必要で、水準にある子を産めるか疑問です。応援するファンは牝馬ということで、繁殖入りも期待していたでしょうが、そのためには430~440キロは必要。乗馬の道の方がいいと判断しました」と苦渋の決断になった。

 レディアイコは、これまでJRAで2戦し未勝利。岩手に移籍後は6戦して3着が最高だった。一口馬主クラブ「ローレルクラブ」の再ファンド対象馬でもあり、応援するファンのためにJRA復帰(地方在籍中の8月までに3勝が条件)を目指すとともに、オグリキャップの血統を継承する繁殖牝馬としても期待されていた。祖父が快走した聖地で2月に再出発したばかりだったが、今回のけがでJRA復帰の道が途絶えたこともあって、引退することになった。

笠松デビュー戦。青柳正義騎手を背に、パドックを出て返し馬に向かうレディアイコ

■「乗馬」でファンとふれあい

 佐藤代表は「中央に戻るため、これまで試行錯誤してきました。地方で3勝しないと、復帰条件をクリアできないし、『笠松でなら何とか勝てるんじゃないか』と夢を見て送り出しましたが」と残念がった。

 レディアイコが生き残るための道の選択肢としては、①競走馬②乗馬③繁殖馬の三つ。今年で4歳になったが、競走馬としては馬体の成長がほぼ止まる年齢で、これまでの成績も考えて「復帰しても体力的に競馬を続けることは厳しいだろう」と判断。応援してくれたファンとふれあって、親しんでもらうことができる乗馬への道を選択。「乗馬クラブへどこか、地元の北海道がいいのか」と、けい養先を探すことにした。

  天皇賞・秋などを勝ったモーリスは510キロを超えており、佐藤代表は「父は雄大な馬なんですが、子のレディアイコが400キロとはね。こんなはずではなかった。牧場にはモーリスの子がもう1頭いて、500キロ以上あるんですが」とも。

 笠松では前走4着だった。次走以降「ワンチャンスあれば勝つこともできるのでは」と牧場でもファンと同じように期待を寄せていたが…。コースを駆け抜けて、ゴールを目指す姿はもう見られなくなった。

オグリキャップ最後の産駒として、佐藤牧場で繁殖馬生活を続けるミンナノアイドルと、オグリキャップ初代オーナー・小栗孝一さんの家族ら

■父コパノリッキーの子で、1歳になる妹に夢を託して

 牧場では「オグリキャップの血をつなぐことに使命感を持ってやってますが、絵に描いたように進むものではない」という。母馬のミンナノアイドルは、中央で1戦しただけで繁殖入りし、15歳になった。昨年2月には、コパノリッキー産駒の女の子も出産。佐藤代表は「今後はコパノリッキーとの子で1歳になる妹に夢を託してみようかと。現在は370キロ台で標準サイズ。もう少し胸幅が出てくれば」と期待。既に母ミンナノアイドルの後継となる繁殖牝馬として「オグリの血統継承」を頭に思い描いているそうで、大きく育ってほしいものだ。

 昨年末で引退した岩手競馬の名馬エンパイアペガサスも佐藤牧場の生産馬。地方重賞19勝は岩手競馬の最多記録。2018年には笠松でも走り、オグリキャップ記念を圧勝。騎乗した岡部誠騎手は、アンカツさんから花束を贈呈された。大差勝ちに佐藤代表は「牧場でオグリの血統を受け継ぐ努力をしてきて、このレースに特別な思いがあった。オグリがデビューした地で、一番のパフォーマンスを見せてくれ、勝てて最高の思い。オグリが勝たせてくれたようなもので夢みたいです」と夫人と共に歓喜に浸っていた。優勝レイは、佐藤牧場でミンナノヒーローの肩掛けにもされ、オグリの聖地での栄冠を祝った。

2018年のオグリキャップ記念を制覇したエンパイアペガサス。佐藤牧場の生産馬で重賞19勝を挙げて、種牡馬入りした

■エンパイアペガサスの子も受胎、「アッと驚くような強い馬を」

 ミンナノアイドルは馬体も若々しく、受胎率が良くなっており、おなかにはエンパイアペガサスの子も宿った。3月初旬に受胎していることを確認。佐藤代表は「岩手競馬のファンもいっぱいいるし、オグリキャップの孫、ひ孫へと血をつないでいってほしい。ファンに応援してもらえれば」と新たな命の鼓動に期待。ファンに感動と勇気を与えたオグリキャップの走りについて「『記憶のオグリ』であり、そんな名馬は他にいない。夢だけは持ち続けて、アッと驚くような強い馬をつくっていきたい」とオグリ一族の血統継承への意欲を示した。
 
 通常、繁殖牝馬が活躍できるのは20歳前後までという。ミンナノアイドルはあと3、4年は繁殖馬生活を続けられそうで、オグリキャップの新たな孫が誕生する可能性は十分にある。

■ファンら「寂しくなるけど、長生きしてほしい」「佐藤牧場とオグリキャップの血統の応援を」

 レディアイコを応援していたファンらからは、JRA、岩手、笠松で駆け抜けた計10戦での頑張りをたたえる声がネット上で相次いだ。

笠松デビュー戦、6着だったレディアイコ。ゴール前などで多くのファンが応援した

 「競走馬としての頑張りを、一緒に応援していただき、ありがとうございます。寂しくなるけど、長生きしてほしいです。競走馬として走る姿を見せ続けていただいた佐藤牧場さんにも感謝しています」

 「乗馬になるみたいだけど、小さい体でここまでよく頑張りました。命あるだけでも十分。これからも佐藤牧場さんとオグリキャップの血統を応援していただけたら幸いです」

 「いままで頑張ってくれてありがとう。力を発揮できないままになって残念です。体が小さいのに、繁殖にいくのはリスクも大きく難しいんだと思います。コパノリッキーの子が昨年生まれてますし、ミンナノアイドルも繁殖牝馬として現役なので、まずはゆっくりと養生してくださいね」

■オグリキャップの血統ロマン、夢の翼を広げて

 笠松競馬・円城寺厩舎で初めて見たレディアイコは、祖父の面影があり、「よくぞ、来てくれた」との思いでいっぱいになった。オグリキャップの孫娘が笠松競馬場で走ってくれたことが本当にうれしかった。着順よりも、無事ゴールしてくれれば良かった。3月29日4Rには3戦目の出走登録もあったが、回避していた。「17日に走ったばかりだし、ちょっと休んで4月戦に備えるのかな」と思っていたが、悲しいことになってしまった。繁殖入りも期待していたが、けがの具合は命に関わるような状態ではなく、乗馬クラブなどで元気な姿を見せてくれるといい。オグリキャップの孫娘の背中を感じたくて、多くのファンが会いに行くことだろう。

 オグリキャップのルーツ・笠松競馬と深いつながりがある佐藤牧場。母馬ミンナノアイドルが元気で、さらに子宝に恵まれれば、オグリ血統ロマンの夢の翼を広げることができる。「これからもオグリキャップの血をつないで、強い馬をつくってください。生産馬を笠松でもまた走らせてください」と願いを伝えた。

満開になった笠松競馬場前の桜並木。花見シーズンの開催としては、3年ぶりにファンを迎えることができた

■不祥事に揺れた笠松、最終レースで大波乱

 笠松競馬の3月末開催は、堤防道路沿いの桜が満開になった。ファンたちは3年ぶりに花見も楽しみながら来場した。31日の年度末最終レースでは、不祥事に揺れた笠松競馬を象徴するかのような大波乱。アンカツさん夫人の所有馬で5番人気アドマイヤムテキ(名古屋)がゴール前の接戦を制した。2着は10番人気、9番人気馬が同着という珍しい決着で、3連単は72万8900円と62万4780円と「猛爆」。クリーンになった「再生・笠松競馬」では差し脚が決まる、迫力あるレースも多くなった。

 新年度の笠松開催は新緑賞シリーズ。変則日程でまず6、7日。弥富に移転した新名古屋競馬場での開催を挟んで14、15、18、19日に開催される。内覧会で訪れた「新名古屋」はきれいになったが、スタンドはコンパクトになって収容人員約2000人。2階の有料エリアにレストランはあるが、1階や屋外には飲食店がないようだった。「旧名古屋」で人気を集めた飲食店のグルメは味わえそうもなく、様変わりにオールドファンは戸惑いそうだ。

 笠松競馬場の串物は4月から「100円→120円」に値上げする店もあるそうだが、「それでもまだ安い」とファンの声。老朽化は進んでいるが、昭和レトロ感満載のワンダーランド。ゴール近くのスタンドで、日本唯一の「内馬場パドック」をのんびりと眺めてみてはどうか。7日には3歳重賞「新緑賞」があり、東海ダービーを目指す馬たちが対決する。

■オグリキャップ記念や白毛・芦毛馬限定レースも

 4月28日には昨年中止になった「オグリキャップ記念」が開催され、2500メートル戦で全国の長距離ランナーが熱戦を繰り広げる。29日12Rでは笠松所属馬による白毛・芦毛馬限定レース(C級)を予定。芦毛馬レディアイコの参戦も見込まれていたが、引退のため出走できず。2005年にはオグリが笠松へ里帰りし、芦毛馬限定レース「芦毛伝説オグリキャップ賞」が開催されたこともあった。オグリと宿敵マーチトウショウとの対決など笠松でも繰り広げられた「芦毛伝説」をよみがえらせるとともに、「ウマ娘」とのコラボで新たに盛り上げ、名物レースとして定着させていきたい。