歩行者シミュレーターを体験する高齢者=岐阜市日置江、日置江公民館

 地域の高齢者たちが「学生」となって交通ルールや交通マナー、事故の恐ろしさなどを学ぶ「高齢者交通安全大学校」。実は、前身を含め約35年にわたって続いてきた岐阜県独自の取り組みだ。1年間の「カリキュラム」を通じて“地域の交通安全リーダー”を育てることが目的。開設の経緯や狙いについて探ると、交通安全という目的だけでなく、意外な楽しみがあることも分かった大学校。高齢者を事故から守るため、学生たちは学び続ける。

 開校のきっかけは交通事故死者が急増した「交通戦争」だった。県警交通企画課によると、最多だった1970年、県内での交通事故死者は317人に上った。昨年2021年は61人で、実に5倍以上だ。いったん落ち着いたが、1980年代に入ると第2次交通戦争が始まった。

 悲惨な状況をなんとかしようと、岐阜南署は87年度、ターゲットを高齢者に絞った新たな事故防止対策に乗り出した。自治体などと連携し、管内にある一つの小学校区を「高齢者交通安全モデル地区」に指定し、高齢層の交通安全意識を高めるのが狙いだった。取り組みは評価され、県内全域へと広げられることに。そこで発案されたのが高齢者交通安全大学校だ。

 99年度、最初の大学校が岐阜市の市橋地区で岐阜南署によって開校された。翌2000年度からは県内の全署がそれぞれ一つの小学校区を選んで開校。自動車教習所での実技講習や危険箇所をまとめた「ヒヤリ地図」の作成などがカリキュラム。運転する側と歩行者の双方の立場で交通安全を学んでもらうのも特徴だ。大学校の名を冠して高齢者の交通安全活動を長期間同じ枠組みで行うことは、全国的にも珍しいという。

 「大学校と名が付くことで、学ぶ意欲が高まっている人もいた」と話すのは21年度、岐阜市の日置江地区に岐阜南署が開校した高齢者交通安全大学校でクラス委員を務めた石榑明彦さん(78)。参加者の多くは大学に進学が珍しく、憧れていた世代。修了証をもらった人の中にはうれしさの余り、額に飾る人もいたという。

 同署交通課長や同市防犯交通安全課長を「教授」に迎え、安全運転サポート車の衝突被害軽減ブレーキの効果を実体験する講座、自動車や歩行者シミュレーターを使った講義などを実施。高齢者約100人が学生となり、履修した。「高齢者なので運転はうまくならないが、意識が変わった。交通安全の重要性を再認識できた」と石榑さん。修了と同時に、クラスの中で数人しかなれない「高齢者交通安全リーダー」に選ばれ、地域の高齢者や子どもに交通安全指導をする役割を任された。

 交通死亡事故の死者は、全体では減少、高齢者も減少傾向ではあるが、全体の減少ペースに追い付いておらず、高齢者の占める割合が年々増加している。昨年は6割を超えた。高齢ドライバーが加害者となる事例も後を絶たない。同交通安全大学校で運営事務を担った岐阜南署交通課は「参加するうちに徐々に交通安全の意識が高まったと思う。大学校開催地で交通事故が減少する傾向はある。修了者が地域に交通安全の大切さを広めているからではないか」と意義を語る。

 石榑さんや仲間のリーダーたちは、大学校で学んだことを地域に還元しようと、散歩など外出時に交通安全指導を続けている。高齢者だけでなく、登校中の子どもたちにも横断歩道の正しい渡り方などを伝えている。自然と、地域のつながりが強くなっていく。石榑さんは「交通安全活動が、地域のつながりを良くするきっかけになっている」と満足げに話した。