津保川を前に2018年の豪雨を振り返る鷲見明さん。右後ろは関市武儀事務所=25日、同市中之保

 2018年7月の西日本豪雨による津保川の氾濫で被災した関市武儀地域の3自治会が今年4月までに、災害への備えをまとめた「地区防災計画」を策定した。11年の東日本大震災を機に制度化された地区防災計画は、地域の共助を促す仕組みとして県内各地でも策定が進む。豪雨の記憶がまだ生々しい山間の地で住民主導の計画作りはどう進み、何に頭を悩ませたのか。

 18年7月8日深夜。「ゴーッ」という水音が響き、滝のような雨が屋根をたたいた。自宅の周囲の田んぼは川のよう。70~80メートル先の川は、濁流が波打ち、盛り上がって見えた。

 「生きた心地がしなかった」と関市中之保の鷲見明さん(69)は振り返る。市武儀事務所に近い若栗地区の前自治会長で、当時は自主防災会の防災部長。豪雨で安否確認に回ることができず、午前2時35分に出た避難指示にも気付かなかった。解析で1時間に100ミリという猛烈な雨の中では、「たとえ避難と言われても無理だった」。

 のどかな川沿いの地に岐阜市から移住して十数年。地域の古老からも「まず洪水はないよ」と聞かされ、防災訓練も火災への備えが主だった。想定外の水害で若栗地区は61世帯のうち7世帯が浸水被害に遭い、中之保、下之保、富之保からなる武儀地域では164世帯が被災している。

 市自治会連合会武儀支部は19年、防災の勉強会を始める。全26自治会で地区防災計画の策定を目指したが、コロナ禍で一堂に集まることが難しいため、若栗、粟野、町の3自治会が先行することになった。

 頭を悩ませたのは、市の避難指示に先んじる独自の避難判断のタイミングだった。風雨の中や就寝後の避難を避けたい一方で、空振りが続けば住民の足が鈍りかねない。勉強会では、気象庁の危険度分布サイト「キキクル」や水位情報のほか、「はかり岩」の名で伝わる地区の警戒水位の目安も判断基準の案に出た。

 若栗地区は早めの避難を考え、「大雨・洪水警報の発令」を基準に採用した。注意報から切り替わった段階で各班長が各戸に避難を促す。鷲見さんは「空振り批判は覚悟の上」と表情を引き締めながらも、「避難させる責任は重い。注意報が出ると気が気でない」と打ち明ける。

 助言に当たった岐阜大学流域圏科学研究センターの小山真紀准教授(地域防災学)は「一人一人がいつ逃げるか、最適解は共通ではない。リードタイム(避難準備に必要な時間)を長く取るほど確度は低くなる」と悩ましさを指摘する。

 若栗地区は昨年末現在、約100人の住民のうち75歳以上が43人に達する。うち独居が9人、共に75歳以上の夫婦も13世帯を占め、自力避難や連絡に困難が予想される。まとめた計画を基に7月3日、地区の防災訓練で避難を試す。

 自治会役員は1年任期が多く、地区防災計画を形骸化させず引き継ぐことも課題。市自治会連合会武儀支部の和座豊秋防災部長(66)=同市富之保=は「旗を振るわれわれですら災害の記憶は薄れていく。計画をいかにつないでいくかが最大の課題で、毎年の防災訓練を通じてスキルアップしていってほしい」と期待する。

 【地区防災計画】 2011年の東日本大震災で再認識された地域共助を進めるため、13年改正の災害対策基本法に盛り込まれた。地域の特性に合わせ、自治会や自主防災組織単位で住民が立案し、地域防災力の向上に役立てる。20年4月現在、全国4170地区で準備が進む。県内は恵那市、羽島市、海津市などの18地区(今年3月末現在)で策定された地区防災計画が、自治体の地域防災計画に反映されている。