眼科医 岩瀬愛子氏

 例えば、「風邪薬」や「睡眠薬」「せき止め」「乗り物酔いの薬」などの市販薬をご自分で選んで購入された時、注意書きに「緑内障があると使えない」とあるのに気付かれたことがありますか? 眼科以外の病気で医療機関での検査や投薬をされるとき、例えば消化器の検査や手術、精神安定剤や、泌尿器科で処方される薬なども関係しますが、緑内障があると、担当医から眼科に問い合わせがくることもあります。これは緑内障のいろいろな型の中に、ある種類の薬を使わない方がよい型があるからです。

 緑内障は、眼圧がその人の目にとって高過ぎることで起こります。そして、眼圧は目の中にある水(房水)の量によって決まります。房水は目の中の毛様体というところで出来て循環し、角膜と虹彩の境目にある「隅角(ぐうかく)」というところから目の外に排出されて量を一定にして眼圧を維持しています。緑内障の型の中には、ここが広い場合(開放隅角緑内障)と狭い場合(閉塞隅角緑内障)があります。広ければ房水は目の外に容易に出られますが、閉塞隅角の場合は隅角で抵抗があります。そして、特に瞳が開く(散瞳する)ことで、虹彩の根元がより隅角に近づくため、隅角がより水が出て行きにくい状態になります。緑内障の人に使えないとされている薬は主にこの瞳が広がる薬です。

 水が時々流れなくなる場合は眼圧も時々上がる程度で緑内障の進行は緩やかですが、急に全部閉塞して出て行かなくなると、眼圧は急激に上がり通称「急性緑内障発作」といわれる状態になります。その症状は、眼痛や頭痛、視力低下が急に起こり、放置したままにすると視力や視野異常が戻らなくなります。注意書きは、薬物投与によりこういう状態が起こることを防ぐためのものなのです。

 緑内障は年齢とともに有病率が上がり、多治見市での調査の結果では、70歳以上になると100人に10人以上がなっています。今回お話ししている閉塞隅角緑内障も同じで、70歳以上の100人に約2人がなり、さらに、閉塞隅角予備軍の人を含めると100人につき約4人あります。隅角の状態は、年齢とともに変わります。一般に緑内障は、初期や中期には症状がないことで有名ですが、閉塞隅角緑内障も「急性閉塞隅角緑内障発作」以外は、隅角が狭くてもほとんど何の症状もありません。時々眼圧が上がる場合も何の症状もありません。

 緑内障で眼科医に通院中の方は、目の状態がどうなっているのか把握されているので大丈夫ですが、ちょっと心配なのは、閉塞隅角の目なのに、気付かないままで眼科医にかかっていない場合は、こうした薬物を使用しているとそのたびに眼圧が上がっているかもしれません。一概には言えませんが、閉塞隅角緑内障は若い頃には裸眼視力の良かった遠視の方に多く、また、高齢の女性に多く、血縁関係のある、例えば祖母・母親などに緑内障で急に症状が出た人がいるとかかりやすいようです。眼科で発作の予防処置は可能ですし、白内障の手術をした場合は、隅角は広くなりますので手術後は閉塞隅角の心配はいりません。ご自分の眼の詳細は眼科医でご確認ください。

(たじみ岩瀬眼科院長、多治見市本町)