YJS初参戦で意気込みを語る長江慶悟騎手。「笠松の佐々木朗希」をアピールした

 「プロ野球の佐々木朗希投手にそっくりだね」と騎手仲間からも注目を浴びた。これまで地元・笠松競馬場でしか騎乗したことがなかった長江慶悟騎手(22)=後藤佑耶厩舎、愛知県春日井市出身=が、18日の「2022ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」高知ラウンドで全国デビューを果たした。第1戦は猛追して3着、第2戦は9着で西日本地区地方騎手の総合3位につけた。

 レース前には、出場騎手の集合写真が撮影され、地方の7人、JRAの5人がガッツポーズで勢ぞろい。場内やネット上では騎手紹介のビデオ映像も流され、「笠松競馬から初出場の長江慶悟です。他のジョッキーに負けないように頑張ります」と闘志満々だった。

 NAR公式チャンネルによる各地方騎手の動画撮影もあり、デビュー戦を迎える長江騎手にとっては、全国に「顔と名前」を売り出すチャンスでもあった。以前の打ち合わせ通りに?「プロ野球バージョンでお願いします」と声を掛けてみると、期待通りのパフォーマンス。「佐々木朗希投手に似ていると言われている笠松競馬の長江慶悟です。ヤングジョッキーズシリーズを楽しんで乗りたいと思います」と自らのセールスポイントをアピール。ロッテファンという職場の20代女性も「前より似てきましたね」と注目していたが、どうだろう。

 高知第1戦、イタズラウナギに騎乗し、返し馬に向かう長江騎手

 デビュー時の丸刈りから髪も長くなって、長江騎手は「みんなからよく似てると。検量室のおばちゃんにも言われますからね」と笑顔。佐々木投手が完全試合を達成して大ブレーク。長江騎手もそれにあやかって、少しでも活躍したいところだ。YJS直前の笠松開催では、2日で3勝を挙げるなど成長した姿も見せていた。

 2度目の出場となった名古屋の浅野皓大騎手(21)=今津博之厩舎、岐阜県羽島市出身=は「去年は、けがで予選の途中までしか出走できず悔しい思いをしました。今年は、しっかりと馬を動かして上位を目指したい」と意欲。2019年秋デビューで、今年は高知戦前までに25勝。弥富の新コースでは好騎乗を見せて、穴馬で波乱を呼ぶことも多い。今年、笠松での騎乗は少ないが、4戦して2勝、2着1回と好成績だ。

■振り落とされた馬でデビュー初V、2度の落馬負傷を乗り越え奮闘

 長江騎手は一昨年10月のデビュー以来、試練の連続で苦難の道を歩んできた。初騎乗から3日目、返し馬で自厩舎のタッチウェーブに振り落とされ、肝臓損傷で約2カ月半も戦線離脱。 昨年1月12日、再びタッチウェーブとのコンビで挑み、待望の初勝利。「自分がけがをした馬で勝つことができた」と復帰後も乗せてもらえたことに感謝した。

 その1週間後、笠松競馬は不祥事で大揺れとなって8カ月間もレース自粛。長江騎手の初勝利記念セレモニーもお流れに。再開を信じて攻め馬に黙々と励む日々が続いた。9月8日にレースは再開されたが、再びアクシデント。今度は再開2日目のレースで落馬負傷し、再び療養生活。デビュー以来継続して騎乗できず、苦闘が続いた。

 昨年末の復帰後は、騎乗馬をうまく動かせない自分を見つめ直し、体力強化を図ってジョッキー人生を懸けた闘いとなった。今年は一つ一つ勝利を積み上げて16勝。後方から追い上げ、4コーナーで一気に先頭を奪う競馬を得意にしており、連勝が4回もある。

 高知でYJSに出場した地方騎手はレース経験1000戦以上の騎手が多いが、長江騎手はまだ182戦という少なさ。経験不足と初めてのコースで、砂の深さや位置取りなどに苦労しそうで、厳しいレースが予想された。

 大外から3着に突っ込んだ長江騎手騎乗のイタズラウナギ(10)

■長江騎手、第1戦は最速タイムで追い込んで3着

 YJSの西日本地区開幕戦となった高知ラウンド。第1戦は1400メートル。6番人気・レイカサンライズ騎乗の大久保友雅騎手(JRA)が2番手から追い上げて1着ゴール。逃げたサイモンシナモン騎乗の魚住謙心騎手(金沢)が2着に粘り込んだ。
 
 「YJSではやっぱり結果を求めますよ。でもまずは無事に回ってきたい」と笠松で話していた長江騎手。イタズラウナギ(牡5歳、田中伸一厩舎)に騎乗。馬体重392キロと小柄な馬で58戦して未勝利。3番人気ながら、笠松より5キロほど重い「負担重量56キロ」での騎乗に、やや不安もあった。好スタートを切って、中団後方の8番手から追走。いい脚で4コーナー大外を回ると、メンバー最速の上がりタイムで突っ込んだが、先行した2頭には届かず、2馬身半差の3着だった。

 3着でゴール後、笑顔を見せる長江騎手

■「手応えが良く、大外を回って勝てるかと」

 レース後は笑顔で戻ってきた長江騎手。3コーナーから笠松のレースのように追い上げた。「外枠を引いたんで、向正面から一気に上がっていこうと考えてました。思ったよりいい脚を使ってくれて、3コーナーの手応えなら大外を回って勝てるんじゃないかと。最後は前の2頭と同じ脚色になっちゃったんで」と振り返った。ラストは突き抜けるほどの脚はなかったが、人馬ともに持ち味を発揮し、健闘が光った。

 「先生からは中団から付いていったらいいよと言われ、ゲートもうまく出ていい位置を取れましたし、馬もすごく頑張ってくれた。思ったように乗れて3着という結果を出せたし、人馬とも無事に回ってこれて良かったです」とレース内容に満足そうだった。

 初出場については「出たいとずっと思っていました。笠松に短期で来ている及川烈騎手が、(YJS初戦の)盛岡で勝っていて意識しますし、(8月4日、佐賀で騎乗する)東川慎先輩にも負けないように頑張りたいです」と意欲を示した。

高知城も訪れ、山内一豊像前で活躍を誓う長江騎手

■ドッキリ、騎手待機所に潜んでいた巨大なクモ

 この日、長江騎手は初めての遠征競馬。もちろん笠松での攻め馬も午前3時頃までこなして小牧から空路、付き添いの広報さんと高知入り。たまたま飛行機内で一緒になり、高知競馬場まで同行させてもらった。時間に余裕があったので、路面電車を乗り継いで、「南国の名城」高知城では馬上の山内一豊像前で闘志を注入。祝日でごった返す近くの「ひろめ市場」で海の幸を味わい、「海の日にイタズラウナギで一暴れしたい」と臨戦モードに。ところが、お昼に高知競馬場入りして、案内された厩舎奥の騎手待機所で体を休めようとすると、ドッキリが…。

 笠松の東川慎騎手はこの日、自らのツイッターで騎手控室のソファからゴキブリが出て驚いていたが、長江騎手が遭遇したのは、室内の壁際にいた巨大なクモのお出迎えだった。脚を伸ばせば体長10センチほどか。時折動いて「やばいよ、これじゃ集中できない」と、レース前に肝を冷やされたようだ。笠松競馬場のコースでもいろいろな小動物が出入りしているが、これも地方競馬ならではか。老朽化して一部廃虚状態の笠松競馬場は「肝試しのワンダーランド」でもあり、足を運ぶ機会があるファンは覚悟の上、来場していただきたい。

 高知第2戦、パドックであいさつし、騎乗馬に向かう騎手たち

■第2戦、最後方待機策は不発「僕の実力不足でした」

 第2戦も1400メートルで、角田大河騎手(JRA)騎乗の2番人気・コスモザウルが後続を5馬身突き放して圧勝。魚住謙心騎手(金沢)騎乗のリヴァージュが2着、兼子千央騎手(金沢)騎乗のホットポッドが12番人気で3着に突っ込んだ。

 長江騎手は追い込みタイプのオウケントップ(牡4歳、国沢輝幸厩舎)に騎乗。乗り難しい面のある馬で、最後方待機策で追い上げたが差し脚は不発。大外を回って9着に終わった。「僕の実力不足でした。もっと気性の悪い馬にも乗って勉強しないとね」。最後の直線では「砂が掛からなくなって、ようやく走るようになりましたが」と、ポイントを稼げず残念そうだった。

 地方騎手では金沢勢が強く、魚住騎手が40ポイントで地方勢トップ、兼子騎手が21ポイントで2位。長江騎手は17ポイントで3位だった。魚住騎手は「また2着で、勝ちたかったです。悔しいけど地方勢では最先着だったんで、次の金沢では勝利を目指して頑張りたい」と好感触。名古屋の浅野騎手は10着2回で7位だった。

 佐々木朗希投手の投球フォームをまねる長江騎手(左)と、捕手の構えをする木元直騎手

■朗希投手のフォームまね、木元騎手とツーショット

 レースが終われば、和やかなムード。地方騎手は教養センター時代、一緒に騎乗技術を学んだ仲間でもある。長江騎手は中学まで、スポーツは野球をやっていて、内外野とも守っていたという。兵庫の木元直騎手は長江騎手より3期先輩だが、同い年の22歳。3日前の園田競馬で尾骨を骨折しながらも「鉄人を目指します」とYSJに参戦。東川慎騎手とは同期でもあり、ともに通算90勝台で「減量騎手」卒業も近い。

 木元騎手は「佐々木朗希投手のファンで、メチャそっくりだと思っていて、一緒に写真を撮りたかった」そうで、長江騎手とツーショット。朗希投手のフォームをまねる長江騎手と、捕球するポーズを決める木元騎手。兵庫出身でタイガースファンだという。「朗希投手の投げ方を極めようかな」という長江騎手は名古屋弁は出てこないが、やはり地元のドラゴンズファンだそうだ。「慎先輩には負けるだろうけど」と、ものまねトレーニングにも興味を示していた。

 地元・高知勢は浜尚美騎手が5位、岡遼太郎騎手は6位でスロースタート。浜騎手は3年前の笠松ラウンドで騎乗したことがあり、「深沢杏花騎手は元気かな」と、同じ女性ジョッキーとしても気になる存在のようで「最近、3連勝したよ」と伝えると驚いていた。深沢騎手と浜騎手は、金沢ラウンド(8月16日)で対戦する。

 YJS高知ラウンドに参戦し、ガッツポーズで闘志を燃やす地方競馬(後列)、JRA(前列)の騎手たち

■今村聖奈騎手に「ぜひ笠松へ来て」、地方初Vを

 JRAの騎手で注目度が高かったのは、CBC賞で重賞初騎乗初Vを飾った新人の今村聖奈騎手。1戦目6着、2戦目は果敢に逃げたが12着に終わり、地方競馬での初勝利はまたもお預けとなった。師匠の寺島良調教師は岐阜県出身でもあり、実家が近所で小中学校も同じであることを伝え、「(寺島厩舎のミスマンマミーアの馬主だった)吉田勝利オーナーも笠松ですし、チャンスがあったらぜひ乗りに来てください」とお願い。地方では名古屋、金沢、園田、高知で計8戦。名古屋で2着2回はあるが、1着はまだない。できればJRA交流戦で笠松にも参戦し、地方初Vを飾ってもらいたい。

 もう一人、注目されたJRA新人の鷲頭虎太騎手。15日の函館3レースで、騎乗馬から落ちそうになったが、「アクロバット騎乗」で落馬を回避。「僕、ホント死ぬかと思いました。やばかったです」と振り返りながらも「地元の函館で4勝できて良かったです」と笑顔だった。長江騎手は7月1日のレース中、前の馬と接触して落馬。けがはなかったがヒヤリ。より体幹を鍛えて、鷲頭騎手のような粘り強い騎乗も見習って、馬にしがみついてでも落ちないようにしたいものだ。

 この日は長江騎手のご両親も来場され、ライブ観戦で応援。「高知競馬場は初めてでしたので、とても新鮮で楽しかったです。レースは、ただただ感動しました。笠松と同じ1400メートルでも、高知の1400メートルは、とても長く感じました。レースを見て涙が出ました」と慶悟君の健闘ぶりを喜んでいた。

 高知競馬場を訪れた地元の妹尾将充騎手。大けがから復帰を目指している

■戦線離脱の妹尾騎手も来場、仲間と歓談

 1月から笠松で期間限定騎乗を行った高知の妹尾将充騎手。コロナ禍によるクラスター発生で1開催が中止になり、予定より2開催早く高知に戻った。その後、レースで落馬負傷。脊椎損傷のため療養中で車いす姿だったが、YJS高知ラウンドの表彰式ではにこやかに登場。「僕も乗りたいと思いながら見てました。次にこの場所に来るときは、自分の足で立てるよう頑張ります」と勝負服姿で意欲を示すと、ファンから温かい拍手が送られた。

 車いすで検量所内を自力で移動し、ジョッキー仲間たちとも歓談。「めちゃ白くなりました。体重は47キロぐらいで筋力は落ちたし、足はすごく細いです」などと話していた。東川慎騎手とは同期で「笠松にもう少しいれば、けがせずに済みましたが。お世話になりましたし、また行きたいです」と笑顔で語り、ポジティブだ。大けがを負ってからも、自らのツイッターを更新。心身ともに前向きに取り組む姿は本当に素晴らしく、ファンらの熱い応援を背に受けて、復帰へと一歩一歩着実にステップアップしている。

 昔ながらの懐かしい風情が漂う高知競馬場内の飲食店

■馬券販売9億円超、「V字回復」の高知競馬場

 スタンド内などがリニューアルされた高知競馬場。この日の入場者は祝日にしては806人と少なかったが、馬券販売は9億4750万円。経営難の時代には1日4000万円ほどだったが、ナイター競馬の実施とネット販売の相乗効果で「V字回復」を果たしてきた。

 場内はスタンドなどきれいに整備されているが、外にある飲食店は昭和レトロの風情が漂い、いつまでも残してほしい場所だ。おでんと焼きそばを買い求め、スタンドで味わいながら、最終の高知名物「一発逆転ファイナルレース」まで観戦した。

■長江騎手、ファイナル目指して「パーフェクトな騎乗」を

 長江騎手はこの日騎乗した2レースを振り返って「まあまあでした。無事に終われたので、それが一番です。成績どうこうというよりも」と、デビュー以来けがと闘ってきただけにホッと一息だったようだ。

 笠松に戻った後は「午前1時半から攻め馬ですし、またあした頑張りたいです」とプロ根性はさすがだ。落馬で肋骨を負傷し、療養中だった藤原幹生騎手も攻め馬に励み、次回開催での復帰を目指しており、「(笠松の鉄人である)藤原さんのような人を見たら、だらだらやってられませんよ」とも。レギュラーは9人しかおらず、他場の半分以下の笠松のジョッキーたち。遠征先で騎乗した夜も、とんぼ返りで寝る間もなく攻め馬に励む日々を続けている。

 11月2日の笠松ラウンドに向けては「ファイナル進出目指して、また頑張ります。きょうと変わりなく、やれることをやります」と闘志。初めての遠征競馬を経験した「笠松の佐々木朗希」は、スタートからゴールまで、自分が理想とする「パーフェクトな騎乗」を目指し、騎乗技術を磨いて走り続けていく。