YJSファイナル名古屋第2戦、本馬場入りする及川烈騎手

 ジョッキー仲間や家族らの熱い応援も背に受けて、若手騎手たちが夢のステージでファイナリストとして力を出し切った。
 
 地方、中央の新鋭16人による頂上決戦「ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」ファイナルラウンドが16、17日の両日、名古屋、中京競馬場で開催された。ゴールを目指して若いエネルギーを爆発させ、3連勝を飾った小林凌大(りょうた)騎手が歴代最多の計91ポイントを獲得し、総合Vを飾った。JRA所属騎手の制覇はシリーズ6回目で初めて。2位は兵庫の大山龍太郎騎手、3位はJRAの永野猛蔵騎手だった。

中京での騎手紹介式。ガッツポーズで気合を注入する各騎手。前列の左端が及川騎手、左から4人目が浅野皓大騎手

 これまで、ファイナルは大井&中山、園田&阪神で開催されてきたが、東海地区では初めて。笠松で期間限定騎乗中の及川烈騎手(浦和)は果敢な逃げで先頭に立つレースもあったが、7着が最高で総合14位。岐阜県羽島市出身の浅野皓大騎手(名古屋)は地元・名古屋で2着があり、総合5位に食い込んだ。

 地元ジョッキーたちも一ファンになって、2人の応援に駆け付け、ライブ観戦。及川騎手、浅野騎手ともに表彰台には届かなかったが、持てる力を発揮し健闘。芝のレースにも初参戦し、大きな経験になった。中京では4R後、ウイナーズサークルでYJS出場騎手紹介式が開かれ、東日本・地方騎手成績トップの及川騎手が真っ先に呼ばれて登場し、他の騎手たちとともに笑顔で整列。カメラやスマホを構えるファンの熱視線に力強いガッツポーズで応えた。
 

名古屋第2戦の1周目ゴール前、果敢な積極策で先頭に立つ及川騎手(10)

 ■及川騎手積極策、4コーナーを回って先頭キープ

 及川騎手はトライアルラウンドで地方騎手唯一の2勝を挙げ、全体でもトップ(地方、JRA)の成績でファイナルに進出した。期間限定ながらも笠松所属後は18勝を挙げ、騎乗技術をめきめきと向上させている。

 ところが、ファイナルでは騎乗馬のくじ運に恵まれず、初日・名古屋での2戦はともに無印(専門紙)で苦戦が予想された。第1戦はしんがり10番人気のトーホウクリスタルに騎乗。前めにつけることはできたが、最後の直線で伸びを欠いて7着。

 第2戦は8番人気のメイショウランブに騎乗し、積極策でハナを奪って各コーナーを先頭で回った。2番手の馬に競り掛けられたが、4コーナーを回ってもまだ先頭。2000メートル戦で距離が長く「踏ん張って、何とか持ちこたえてくれ」と期待したが、ラスト200メートルから各馬が横に広がり、馬群に沈んで7着に終わった。

名古屋第2戦で鋭い末脚を発揮させ、2着に突っ込んだ浅野騎手(1)。及川騎手は7着(10)

 ■見せ場たっぷり「最後まで粘ってくれた」

 人気薄の騎乗馬でも攻める姿勢を見せ、それなりに頑張った及川騎手。7着だった1戦目は「掲示板には載りたかった。外を回したかったんで、もうちょっと馬に楽させてあげれば良かったが、息が入らなかった」。内から2~3頭分は重めで、外を回した馬が有利な馬場状態。2戦目でも「真ん中より外めを通って、最後まで結構粘ってくれました。手応えはあったが、外の馬の方が速かった。内からも来たんで、馬がひるんじゃったかな」と悔しそうだった。
 
 それでも2戦とも目いっぱいの競馬はできた。「いい勉強になりました。うまく乗りたかったが、技術が足りなかった。直線は長く感じましたし、(余力は)ぎりぎりでした」と振り返り、ラストチャスを生かそうと中京競馬場へ向かった。            

7着2回で名古屋の2戦を終えた及川騎手

 

 ■浅野騎手5着、2着で初日総合3位

 地元・名古屋勢としてファンの注目を集めた浅野騎手。トライアル名古屋ラウンドでは馬場傾向をしっかり読んで、差し切りVと2着で、最下位から大逆転。ファイナリストの座を射止めた。

 名古屋第1戦は、3番人気・ワイジーチャンプで3番手から伸び切れずに5着。「もうちょい3着ぐらいには来たかった。2番手の馬が外を回りすぎてたんで、あそこを回るしかなかった。まあ次ですね、切り替えて。(専門紙の)印は▲と△でしたから、勝てるように頑張ります」と前を向いた。
 
 その第2戦では3番人気・アークフリゲートに騎乗。最後方から徐々に押し上げ、鋭い末脚を発揮させ、最後は2着に突っ込んだ。総合3位につけて「ポイント的にはいいんじゃないですか。中央でどれだけ巻き返せるか。あした1着を取れるよう頑張ります」と闘志満々だった。

JRAの今村聖奈騎手(右)は寺島良厩舎の馬で「新人年間50勝」を達成し、笑顔がはじけた

 ■今村聖奈騎手は寺島厩舎の馬で50勝到達

 翌日の中京競馬場は小雨、良馬場。YJS騎手紹介式後の5Rでは、ルーキーの今村聖奈騎手(寺島良厩舎所属)が1番人気・ベンダバリラビアで差し切りV。JRA史上5人目の「新人年間50勝」を達成した。寺島良調教師=岐阜県北方町出身=の管理馬での勝利で「一番お世話になっている寺島厩舎の馬で、節目の勝利を飾ることができてうれしいです」。Vサインも見せ、聖奈スマイルにファンも大喜び。28日の中山・ホープフルSでは、同じく寺島厩舎のスカパラダイス(牡2歳)でGⅠ初騎乗へ。YJSではファイナルに進出できなかったが、7月のCBC賞(小倉)で重賞初騎乗初Vを飾るなど目覚ましい活躍。女性ジョッキーの記録をどんどん塗り替えていくことだろう。

及川騎手らの応援に駆け付けた藤原幹生騎手(右)と高野誠毅騎手

 ■「ガンバレ」笠松、名古屋のジョッキー仲間らも応援

 YJSのレースまで時間があり、ランチタイムで一服。場内のフードコートでカレーきしめんと串カツを食べていると、応援に来た藤原幹生騎手と、笠松で期間限定騎乗中の高野誠毅騎手(大井)に遭遇。藤原騎手は自厩舎の後輩でもある及川騎手を、高野騎手は同じ大井の大木天翔(かける)騎手に注目。及川騎手の勝負服マスク姿(オレンジ色)の藤原騎手は「笠松からみんなが応援に来たんでガンバレ」と笑顔で激励していた。

 2人とも久しぶりのJRA競馬場で息抜きにもなって、生ビールを手にご機嫌。地方騎手はJRAの馬券を購入できることから、専門紙も手に「馬券おやじ」になりきって、ファン目線で人馬を応援。いつもとは逆の立場で予想にも熱が入っていた。

中京のパドックでは熱い声援も受けて笑顔を見せる及川騎手

 このほか「笠松競馬盛り上げ隊」隊長の渡辺竜也騎手をはじめ、長江慶悟騎手らも来場。名古屋からは加藤聡一騎手、細川智史騎手ら。「烈、ガンバレ」「皓大、ガンバレ」と声援。及川騎手のお母さんや浅野騎手の両親らも駆け付けた。ファイナルには南関東勢4人が参戦しており、浦和、川崎などからも家族ら多くの応援団が来場していた。

 8R前、及川騎手がパドック周回に登場すると、応援団から大きな声援が飛び交い、思わず「レッツゴー」と声を掛けるとチラリと振り向いてくれた。JRAのレースでは勝負服として馬主服を着用するため、オレンジ色ではなかったが、「パドックではワクワクしました」という及川騎手。うれしそうに笑顔を見せながら、本馬場入りで芝コースに向かった。

中京第1戦、最初の直線で一時先頭に立った及川騎手(2)と追う大木天翔騎手(7)

 ■及川騎手、芝コース・最後の直線でも先頭争い

 中京第1戦は芝コース2000メートル戦。4番人気で逃げ馬のテイエムオードリーに騎乗した及川騎手。近走は不振だが、5走前に芝2000メートルで逃げて2着がある馬。専門紙には「○印」もあり、笠松・名古屋の騎手やファンの期待感は高まった。

 中山の芝で2着経験がある渡辺騎手からは「騎乗馬なりの状態に合わせて乗ればいい」とアドバイスを受けていた。及川騎手は好スタートを切り、最初の直線では一時先頭に立つシーンがあり、1~4コーナーでは2番手をキープ。最後の直線では逃げ馬が垂れて、及川騎手と大木騎手の追い比べで先頭争い。応援団に背中を押されて一瞬「烈、来たかー」という熱い展開になった。
 
 しかし、直線は410メートル余りあり、高低差2メートルの急な上り坂もある厳しいコース。残り200メートルを切ると、及川騎手は馬群にのみ込まれ、最後は10着でゴール。応援に駆け付けた及川騎手のお母さんは残念そうに「消えちゃいましたね。逃げて見せ場はありましたが、(直線距離が半分の)笠松と間違えたかな。芝コースは坂がすごく上がっていて、きついですね」と苦笑い。1着ゴールを期待した笠松応援団も、ラストでずっこけていたそうだが、及川騎手はまだデビュー1年目。予選トップ通過からのファイナル進出で、果敢な積極策は「よくやった」といえるだろう。

 浅野騎手は15番人気の穴馬・ジェラペッシュに騎乗し、5番手から4着に食い込む好騎乗を見せた。ここ5走は2桁着順が続いていたが、好位をキープし掲示板を確保。この時点でも総合3位で、期待が膨らんだ。          

中京のパドックを周回する浅野騎手

 ■浅野騎手、3位とは1ポイント差で表彰台を逃す

 第2戦はダート1400メートル戦。及川騎手は10番人気・アウリガテソーロに騎乗。この馬も逃げが得意で一発を期待したが、先手を奪えず中団からの競馬。4コーナー過ぎからは後退気味で13着に終わった。浅野騎手は5番人気・ゼンカイテンに騎乗し、先団に取りついたが最後の直線で失速し16着。ポイントを伸ばせず、総合5位にとどまった。3位とは1ポイント差で非常に惜しい結果。2年前に名古屋の細川騎手が総合3位をゲットしているが、浅野騎手は残念ながら表彰台を逃した。

 ■及川騎手「レベルアップし、来年は納得できるレースを」

 ファイナルラウンドを終えた及川騎手。1戦目は「馬が人気になっていることが分かっていた。『逃げた方がいいのかな』とスタートから出していったが、大外から(16番の馬に)行かれてしまった」とハナを奪えず、2番手に控える競馬になった。「芝コースはダートよりも感覚が伝わってきますね」とレースを楽しむこともできた。

 2戦目は「1200メートルみたいなペースでしたし、ちょっと速かった。馬がフワッとしてしまったんで、そこは反省点ですね」。シリーズ全体を通しては「若手のレースで刺激を受けることが多く、自分も頑張らなきゃと。貴重な体験をできたのはYJSならでは。次に向けてレベルアップして、来年は納得できるレースをしたい」と意欲。ファイナルラウンドでは1番人気が2勝、3~4番人気が3勝。若手騎手の力量はそんなに差はなく、やはり上位人気馬を引き当てる「くじ運」が大きく左右する。及川騎手はもうちょっといい馬に乗せてもらえてたら、結果は違っていただろう。

表彰台で歓喜に浸る総合Vの小林凌大騎手(中央)、2位の大山龍太郎騎手(左)、3位の永野猛蔵騎手

 ■兵庫の大山騎手2位「ファンの声援がよく聞こえた」

 浅野騎手は中京1戦目、ブービー人気馬での騎乗。「陣営に前へ行ってくれと言われ、注文通りのレースができ、しまいもまとめてくれた。芝でまた乗ってみたい」。2戦目は「スタートして気分良く行かせすぎて、最後がもう一息でした」。YJS全体では「若手の交流でいい戦いができた。いろいろな人の話も聞けて良かったし、技術的にまねできるところは取り入れたい」とシリーズを振り返った。

 及川騎手が「仲がいいです」と語っていた1年先輩の大山龍太郎騎手=兵庫=は名古屋、中京でともに追い込んで2着があり、総合2位。地方騎手ではただ一人、表彰台に上がった。「最後の追い込みは自分らしい乗り方ができた」。シリーズを通しては「ファンの声援がよく聞こえ、頑張ろうと思った。2着が多くて(トライアルから5回)悔しい気持ちも強いし、反省点が多いです」とのことだったが、最終戦を待たずに小林騎手が3連勝で優勝を決めており、「まあ、2位でも良かったかな」と最後は納得していた。            
 
 総合Vに輝いた小林騎手は表彰台の真ん中で花束を高々と上げ、「馬に感謝しかなくて、優勝できたことがうれしいです。予選から2勝でき、本戦でも3連勝して、いい経験ができたシリーズでした」と歓喜に浸った。

 及川騎手は、来年もファイナルにチャレンジしてリベンジを果たしたい。浅野騎手は来年4月1日の時点で地方通算100勝以下の減量騎手なら、YJSにもう1回出場できる。12月21日現在で82勝と微妙だが、参戦することになったらラストチャンスを生かしたい。

 ■年末の笠松、東京トゥインクルファンファーレ演奏や軽トラ市も

 笠松競馬の年末特別シリーズは27日、29~31日の4日間。岐阜新聞・岐阜放送杯(29日)、ライデンリーダー記念(30日)、東海ゴールドカップ(31日)と続く。大井競馬でおなじみの東京トゥインクルファンファーレの生演奏(30日)や使用済みゼッケンのプレゼント(31日)などイベント盛りだくさん。正門前では、蹄鉄しめ飾りや競馬グッズを販売する愛馬会の「軽トラ市」(25日、29日、30日予定)=雨天中止=も楽しみだ。

 初めてのリーディングを手中にした渡辺竜也騎手は、川原正一騎手が持つ笠松の歴代最多勝記録「163勝」にもあと3勝に迫っており、カウントダウンとともに記録更新の期待感が充満。大みそか恒例の東海ゴールドカップ。イイネイイネイイネやラブアンバジョ、名古屋からはタニノタビトとウインユニファイドも選定馬で豪華メンバー。年越しの運試しにもなり、ファンでにぎわい、スタンド前では激しい追い比べが繰り広げられる。

 笠松での期間限定騎乗では、及川騎手は大みそかまでの予定。新たに金沢から3人。服部大地騎手、青柳正義騎手が年末シリーズから、葛山晃平騎手は年明けに。岩手からは高橋悠里騎手、関本玲花騎手、岩本怜騎手の3人が新春シリーズから参戦。フレッシュな対決で笠松競馬を盛り上げてくれる。