串カツや唐揚げなどを求めて、にぎわう笠松競馬場内の飲食店

 ここは新春シリーズを迎えた笠松競馬場。年末3日間は3000人ほどが訪れてにぎわったが、600人前後に戻って平常営業。連日、青空が広がって気温は高めで風も穏やか。1周1100メートルのダートコースでは、ピーンと張り詰めた真冬の空気を切り裂いて、人馬が一体となって疾走。木曽川河畔にフレッシュなドラマを繰り広げている。

 場内飲食店で串カツ、おでん、唐揚げ(1本120円)などご当地グルメを買い求めて、スタンドでのんびりとレースを生観戦するのは「最高のぜいたくだ」という笠松ファンも多い。コースの3~4コーナー沿いにカーブして鉄橋を渡る名鉄電車も眺められ、笠松競馬場ならではの光景で、鉄道ファンにも人気が高い。 

場内に掲示されている笠松競馬所属騎手一覧表。上段が笠松レギュラー陣。下段は期間限定騎乗の騎手たち

 ■レギュラー陣より多い期間限定騎手

 「あれっ、いつの間にかジョッキーが増えたぞ」。正門と東門に掲示された笠松競馬所属騎手一覧表を見て、異変に気付いた来場者も多いことだろう。

 所属騎手は上段がレギュラー陣の9人。下段は期間限定騎乗の10人。年末に古巣に戻った2人を合わせれば、今冬は計12人の頼もしい助っ人が笠松に参戦した。期間限定騎手が半数以上を占めているのは複雑な思いにもなるが、一気ににぎやかになった。まだ8、9頭立てのレースは多いが、各地のジョッキーが火花を散らす熱いバトルで、場内や画面越しのファンを楽しませている。

 ここ2年は、期間限定騎手も受難続きだった。2021年1月に笠松の騎手・調教師による馬券購入、所得隠しなどの不祥事でレースは自粛。既に笠松に来ていた関本玲花騎手ら3人も騎乗できなくなった。昨年は新型コロナウイルスのクラスター発生で、期間限定騎手らも相次いで感染。1開催が取りやめになった。

 そんな逆風続きの余波で騎手不足は慢性化。落馬事故によるけが人や騎乗停止もあって、レギュラー全員がそろうことは少なく、8人しか騎乗できない開催が多い。このため東海公営の助っ人として、オールシーズンで名古屋の若手、ベテラン騎手も参戦。冬場は開催休止となる北海道、岩手、金沢のほか南関東からも笠松へ駆け付けてくれた。

3年ぶりの笠松でのレース騎乗で闘志を燃やす関本玲花騎手

 ■「おかえり」関本騎手、3年ぶり笠松騎乗

 うれしいのは多くの「リピーター」たちの来場だ。不祥事続きだった笠松競馬を見限らずに、今冬も助っ人として気持ち良く参戦してくれたのだ。

 岩手の女性ジョッキーで人気が高い関本玲花騎手(22、伊藤勝好厩舎)は、3度目の笠松挑戦となった。4年前の冬には、騎手候補生としても笠松で攻め馬などの実習にも励んだ。期間限定騎手としては、2020年に初騎乗。約1カ月間に笠松で4勝、名古屋で1勝と計5勝を飾る活躍。「歓迎、笠松初勝利、お別れ」と3度もセレモニーが開かれた。ウイナーズサークルではサイン会&撮影会も開かれて、ファンの長い行列ができ、ツイッター上では「玲花おじさん」たちも声援を送った。

 関本騎手は「また笠松に戻ってきたい」という約束通り、翌年にも来場してくれたが、笠松の不祥事でレースには一度も騎乗できず。「期間限定騎乗で来ているのに、かわいそう」という同情する声もあったが、救済策はなく攻め馬だけの日々が続き、黙々と励んでくれた。

 新春シリーズ初日、期間限定騎手5人の歓迎セレモニーが開かれた。関本騎手には「お帰り、100勝おめでとう!」とファンの声も飛び、「目指していた100勝をレディスジョッキーズシリーズ(盛岡)で達成でき、すごくうれしかった」とにっこり。笠松競馬の魅力については、コースなどを見渡しながら「スタンドと馬とがすごく近くて、迫力を感じられること」。期間中には「水沢と同じ右回りで小回りなので、自分の苦手なところを克服できるようにしたい」と意欲。最初のレースでは、ゴール前での競り合いの末、惜しくも2着だったが好レースを見せてくれた。

パドックから返し馬に向かう関本騎手

 ■一番の思い出の馬は芝で勝ったイイヒニナル

 デビューして3年で通算104勝。印象深い騎乗馬を聞くと「いないですね。初勝利は遠すぎて思い出せないし」ということだったが、「強いていうなら、一番の思い出の馬はイイヒニナル(牝3歳、菅原勲厩舎)ですね。2歳新馬戦(盛岡)で勝たせてもらった。芝コースを勝ったのも初めてでした」と。一緒に馬具を手入れしていた長江慶悟騎手からは「ウイニーでは?」と笠松の誘導馬の名前を聞くと、関本騎手は「ウイニー君。乗った、乗った3年前」と、岩手に帰る前に装鞍所でまたがった、笠松のアイドルホースを思い出していた。イイヒニナルはデビュー戦で5番人気だったが、逃げ切って7馬身差の圧勝。2戦目も勝って重賞(ジュニアグランプリ)に挑んだが8着だった。

 笠松初日メイン「うさぎ年賞」ではファンが多いナラ(牝7歳)に騎乗し7着。盛岡・クラスターカップ(交流GⅢ)でも騎乗しており(10着)、2度目の騎乗だった。初日から6鞍に騎乗。「今回もいっぱい勝ってよ」の声には「1カ月しかいないから」と。2月10日までの笠松2開催のほか名古屋への参戦もありそうで、好騎乗を期待したい。

 関本騎手は岩手県奥州市出身で、楽天生命パークでのプロ野球の始球式に登板したこともある。岩手県競馬組合が「岩手競馬ナイター」として協賛したものだった。ロッテ・佐々木朗希投手のそっくりさん・長江慶悟騎手ら笠松の若手にも、長良川球場など地方開催で、いつかそんなチャンスが巡ってくれば盛り上がるだろう。

2年連続で参戦した岩本怜騎手(左)と服部大地騎手

 ■服部騎手「意外性の男」、岩本騎手はYJS総合Vも

 金沢から服部大地騎手(41、栗本陽一厩舎)、岩手からは岩本怜騎手(21、笹野博司厩舎)が2年続けての期間限定騎乗。宮城県出身の服部騎手は、コロナ禍で前回は騎乗が少なく、勝利を挙げられなかった。年末の金沢開催は降雪で中止が続いたが「ファンに喜んでもらえる騎乗を心掛け、まずは1勝することですね」と闘志。1年前、いきなり3連単125万円馬券に絡んでおり、ファンは「意外性の男」として注目。今回も2戦目に最低人気馬で3着に突っ込み、平瀬城久騎手、青柳正義騎手と「金沢勢ワンツースリー」を演出してくれた。

 千葉県出身の岩本騎手はデビュー2年目の2019年、ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)で総合優勝を飾り、NAR優秀新人騎手賞も受賞した。前回は3勝を挙げ、「たくさん勉強することができ、また笠松に行きたいなと。積極的な騎乗を心掛けて精いっぱい頑張ります」と意欲を見せていた。

実績は十分。勝利を目指す高橋悠里騎手(左)と葛山晃平騎手

 ■高橋騎手が1000勝達成、葛山騎手は800勝超

 岩手からは高橋悠里騎手(35、後藤正義厩舎)、金沢からは葛山晃平騎手(43、後藤正義厩舎)も参戦した。水沢開催が1月3日に終わった岩手競馬。高橋騎手は1カ月余り前にケイティディライトで逃げ切り、地方通算1000勝を達成した。笠松は2年連続の騎乗で「馬場の感じや流れも分かり、思い切って乗っていきたい」と。岩手では2年連続100勝以上を挙げてリーディング5位。前回はコロナ禍もあって3勝だったが、今回はもっと勝てるのでは。笠松での2カ月間、より多く騎乗することで、馬券にも絡んでくれそうなジョッキーである。

 葛山騎手は大阪府出身で、歓迎セレモニー前の初レースでは積極的に逃げて2着。「以前から笠松で乗りたいと思っていたので楽しみ。一生懸命追っている姿を見てほしい」とアピール。地方通算813勝。思い出の騎乗馬は「サラブレッド大賞典(2010年)を勝ったナムラアンカー」だそうで、水沢・ダービーグランプリにも挑み2着と好走した。

金沢リーディングの青柳正義騎手。笠松でも勝利を量産している

 ■金沢リーディングの青柳騎手「笠松競馬を盛り上げたい」

 金沢で120勝を挙げて連続リーディングに輝いた青柳正義騎手(37、後藤佑耶厩舎)は笠松参戦の常連。年末騎乗の初戦でいきなり勝利を飾った。セレモニーでは「人気馬に乗せていただき、責任を果たせて良かった。イメージ通りのレースができた」とホッと一息。「笠松競馬を少しでも盛り上げられるよう頑張りたいので、応援よろしくお願いします」とファンに呼び掛けた。年末、新春シリーズで6勝。2月10日までの騎乗で、「あと4勝」に迫った地方通算1200勝は笠松で達成できそうだ。ライデンリーダー記念には金沢・ノブノビスケッツで挑み6着。前回の期間限定騎乗では20勝を飾っており、厩舎の信頼も厚い。

黒沢愛斗騎手(中央)のお別れセレモニー。14勝を飾る活躍を見せた(笠松競馬提供)

 ■黒沢騎手大活躍、1カ月半で14勝

 北海道勢では、黒沢愛斗騎手(35)が年末までの1カ月半で14勝を挙げて大活躍。研究熱心で、特に12月には11勝とブレーク。「前回お世話になったことで、馬も集まりやすく、充実していました。また来ることがあったら、よろしくお願いします」と。もう少し長く騎乗してほしかったし、もし笠松に移籍しフルシーズン戦ったら、100勝以上できそうな好騎乗を見せてくれた。東海ゴールドカップではマジックバローズに騎乗し10着。渡辺竜也騎手「年間最多勝」へのカウントダウンでは、黒沢騎手が2着に来るレースが多かったし、印象深い騎乗を見せてくれた。コースとの相性が良く、また来てくれそうだ。              

及川烈騎手(中央)のお別れセレモニー。笠松で17勝を飾り、YJSファイナルにも出場した

 ■及川騎手は17勝、YJSファイナルも経験

 昨年6月から12月まで、期間を再延長して笠松所属騎手としてよく頑張った及川烈騎手(18)。笠松では17勝、2着22回。騎乗数は246回と恵まれ、先輩騎手らのアドバイスを受けて、こつこつと騎乗技術を磨いた。YJSでは盛岡、浦和でも勝利を飾り、「オレンジの烈風」が吹き荒れた。東日本・地方騎手トップの成績でファイナルラウンドに進出。笠松での努力が結果に結びつき、ファンや関係者を喜ばせ、壮行セレモニーも開かれた。総合14位に終わったが、JRA(中京)の芝コースでも騎乗し、大きな経験になった。

 お別れセレモニーでは、騎手仲間とファンがオレンジ色の勝負服やマスク姿で今後の活躍を願った。浦和から新天地の笠松に飛び込んで「不安な気持ちも、もちろんありましたが、生活していったら慣れていきました」と。笠松のレースについても「とても難しいなと思いましたが、生活していったら慣れていきました」とファンを笑わせた。先輩については「とても温かい人ばかりなので、居心地が良かったです」と感謝していた。「烈君、お疲れさん。ファンがすごく寂しがっていたよ。また帰って来てよ」と声を掛けると「ありがとうございます。ぜひ」と。7カ月間で大きく成長した及川騎手。騎手が多い南関東では騎乗機会に恵まれないだろうが、笠松での経験を生かして飛躍につなげてほしい。

 このほか、北海道勢の馬渕繁治騎手(56、森山英雄厩舎)が3カ月間騎乗(2月13日まで)。2023開運ダュシュのレースで、「新年笠松V1号」を飾って好スタート。若杉朝飛騎手(20、栗本陽一厩舎)は2着4回、3着4回と勝利にはあと一歩。1月末までの騎乗で笠松初Vを飾りたい。大井の高野誠毅騎手(38、川嶋弘吉厩舎)は4勝、金沢の平瀬城久騎手(43、伊藤強一厩舎)は既に10勝を挙げており、好騎乗を見せている。    

1着でゴールする平瀬城久騎手(左)、3着は若杉朝飛騎手(中央)。期間限定騎乗の騎手が増え、熱いバトルを繰り広げる笠松競馬

 ■他場の騎手が6割近い221頭に騎乗

 一連の不祥事では、調教師引退による厩舎廃業が相次ぎ、一時は100頭ほど減っていた笠松競馬の所属馬。今冬は北海道、金沢などからの転入馬が徐々に増えており、新春シリーズは約500頭にまで回復した。1月後半戦から3月にかけては、5日連続(月~金曜)での開催が続く。この日程では6頭立てなど少頭数のレースが多かっただけに、出走馬の確保が大切になる。乗り役が増えたのに、ゲートインできる馬が少なくては困る。笠松を慕って参戦してくれた遠来の騎手たちには、攻め馬から精力的に励んで、レースでもいっぱい乗ってもらいたい。

 新春シリーズの4日間では計374頭(うち名古屋10頭)が出走。地元・笠松の騎手が153頭、名古屋の騎手が82頭、期間限定騎手は139頭に騎乗した。名古屋を含めた他場の騎手が計221頭に騎乗しており、6割近くを占めた。

 結果はどうだったのか。勝利数を比較してみると笠松勢が25勝で、名古屋勢が9勝、期間限定騎手は10勝という成績。地元騎手としての面目は保った。

 ■8頭が横一線、「エキサイティング」で信頼回復

 ジョッキー別では、渡辺騎手がコンスタントに7勝を稼ぎ、連続リーディングへ好発進。藤原騎手も7勝、向山騎手と青柳騎手が5勝、岡部騎手が4勝。やはりリーディング経験者が強かった。有力馬への騎乗が多い地元騎手は「勝って当然」だが、期間限定騎手もコース慣れなどで勝利が増えそうだ。若手騎手は思い切った騎乗で元気さをアピールしていきたい。

 笠松、名古屋勢と期間限定騎手たちの闘志のぶつかり合いは「全国ジョッキー戦」の様相で熱く、迫力がある。特に東海、北陸のリーディングである渡辺、岡部、青柳騎手の3人による追い比べはハイレベルだ。最終日8Rでは残り200メートルを切って8頭がほぼ横一戦で、激しいたたき合いになって超スリリング。渡辺騎手がグイッと抜け出して1着ゴール。2着は高橋騎手、3着は同着(関本騎手、加藤聡一騎手)だった。こういったエキサイティングなレースを続けていくことこそが、笠松競馬の信頼回復につながる。