「岐阜県内の国道に野球ボールがいくつも転がっているところがある」。6月上旬、通信アプリLINE(ライン)で読者とつながる岐阜新聞の「あなた発!トクダネ取材班」に、こんな情報が寄せられた。現地を確認すると、確かに国道上や道路沿いの私有地、側溝などに複数のボールが落ちているのを確認できた。事故につながる恐れもありそうだ。「なぜボールが?」。周囲を見回すと、1軒のバッティングセンターがある。もしや国道に向かって、〝場外弾〟が飛んでくるのだろうか―?

国道上に落ちた野球ボール。わずかな距離で十数個を確認できた=いずれも岐阜県内

 現場周辺は岐阜県内でも交通量の多さで知られた場所。取材中も国道を制限速度を超えていそうな猛スピードで走る車が何台も通り過ぎた。赤信号のタイミングを見計らって国道上のボールを拾い集めると、わずか数十メートルの範囲で10個以上が見つかった。

 他にも道路沿いの会社の敷地内や側溝など、よく見ればそこら中にボールが転がっている。集めればひと財産できそうだ。国道を挟んでセンターから100メートルほど離れた会社の敷地脇でもボールを確認することができた。人や動物が運んだ可能性も否定できないが、もし国道上に打球が飛ぶとしたら、重大な交通事故につながる恐れがある。

拾い集めたボール。汚れ具合から古さを感じるものもある

 バッティングセンターの周囲を歩いてみた。営業時間前で、人けはない。敷地内にいくつも転がっているボールを見る限り、路上に落ちていたボールと同じ種類のようだ。聞けば半世紀の歴史があるという老舗。張り巡らされたネットにはいくつも補修の跡がある。しかしところどころ小さな破れもある。ここから打球が出る恐れはありそうだ。

 近くの住宅で、玄関前の掃除をしていた女性に話を聞いた。「そういえば犬の散歩に出かけると、どこからかボールをくわえてくる」と女性。ちょうど自宅にあったボールを見せてくれた。やはり同じ種類だ。「この辺りは、そこら中に落ちてるよ」。苦笑いして教えてくれた。

何重にも補修の跡がある防護ネット。左上にはボールが通りそうな穴も確認できる

 もしかすると、ボールが飛び出たのは昔の話で、今では補修は終わっているのかもしれない。念のため1週間ほど待って再訪したところ、残念ながら前回ボールを拾った国道上で、新たに少なくとも3個のボールを発見した。今も〝場外弾〟は続いているのだろうか…。

 バッティングセンターに入ってみた。若い2人連れの女性が打席で楽しそうな声を上げている。オーナーの50代男性に事情を告げると、拍子抜けするほどあっさりと「申し訳ない。すぐ対応する」と低い物腰。「お客さんから『外に飛んでいったよ』と言われることもあり、その都度、直してはいる。本当はネットを全部張り直せればいいけど」と表情を曇らせる。

敷地内に転がるボールは、国道上に落ちていたものと同じようだ

 新型コロナウイルス禍で売り上げが1、2割に落ち込んだ時期もあった。3月に開催された野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の効果や、コロナの5類移行を受けてようやく客足は戻りつつあるという。「プロ野球が盛り上がって、もっと野球人口が増えてくれれば、にぎわいも戻るはず」。それがネットの張り替えにもつながると期待したい。取り急ぎ、穴の補修だけはお願いしたい。