ラブミーチャン記念Ⅴのヴィヴィアントエイト。表彰式で岡部誠騎手は「かわいい顔をしている」と語っていた

 「連敗記録」はどこまで続くのか? 笠松競馬場で行われている他地区との交流重賞で、笠松所属馬はラブミーチャン記念でも完敗。何と「23連敗」でワースト記録を更新中だ。昨年6月29日のクイーンカップで生え抜きのドミニク(後藤正義厩舎)が勝って以来1年4カ月余り。「1着ゴール」は遠くにかすんでおり、「馬場を貸しているだけ」と笠松ファンを嘆かせている。

 名古屋、兵庫勢らに優勝をさらわれ、遠征組にとっては「おいしい草刈り場」となっている笠松競馬場。当欄では「賞金・手当のさらなるアップで強い馬づくりを」と期待を込めてきたが、なかなか歯止めが掛からない。
  
 現場の厩舎関係者や競馬場サイドも、本来なら地の利を生かせるホームの重賞を勝てない「異常事態」に歯がゆい思いをしているが、レースは厳しい実力の世界。一連の不祥事による8カ月間のレース自粛中に、笠松に所属していた有力馬は他地区への流出も多く、レベルダウン。弥富から参戦する名古屋勢には見下ろされてしまっている。

ラブミーチャン記念は道営勢が上位独占。笠松勢は後方で完敗だった

 ■ラブミーチャン記念「人馬とも笠松勢」は7、8着

 笠松所属馬の弱体化は、ラブミーチャン記念が象徴的だった。地元2歳の大将格として道営勢などとの対決が期待されたワラシベチョウジャは出走せず。大事に使われているが「強豪との対戦を避けた」という印象も強かった。

 レースはヴィヴィアントエイトが圧勝し、道営勢3頭が上位を独占した。8頭立てで、4着に金沢のショウガフクキタル。5着に笠松のエイシンコーネリア(笹野博司厩舎)が入ったが、勝ち馬からは10馬身以上離されての入線で、騎乗は丸野勝虎騎手。6着は4番人気のタイセイロマン(後藤佑耶厩舎)で塚本征吾騎手が騎乗。「人馬とも笠松勢」のアコーとタノシンダモノガチは7、8着に沈んだ。

 ワラシベチョウシャは笠松所属馬限定の重賞「ネクストスター笠松」では、道営からの移籍組を撃破。「笠松の新星」として次世代スター候補に名乗りを上げたが、主戦の渡辺竜也騎手は9日3Rで落馬し、顎などに重傷を負った。

ワラシベチョウジャでネクストスター笠松を制覇した渡辺竜也騎手

 4R以降の7鞍は騎乗変更になって岡部誠、今井貴大、丸野勝虎騎手の名古屋勢3人が複数回騎乗。笠松の騎手には声が掛からなかった。最終日も9鞍で騎乗変更。名古屋勢が7頭で、笠松勢は松本剛志騎手と長江慶悟騎手が1頭ずつ。「常勝」を期待される渡辺騎手の代打ということで、地元騎手よりも名古屋のベテラン勢の方が信頼されているようだ。

 渡辺騎手は「頬から顎にかけて4カ所骨折してしまいました。しばらく戦線離脱します」とSNS上で自らのコメントを寄せた。同じ日の道営記念では吉原寛人騎手が落馬事故で腰椎などを負傷。地方競馬のトップジョッキー2人が相次いでリタイアとなった。ゆっくり休んでリハビリに努め、レースに復帰されることを祈るばかりだ。     

クイーンカップ優勝馬のドミニクと向山牧騎手(右)ら喜びの関係者(笠松競馬提供)

 ■撫子争覇、重賞4勝馬ベニスビーチは惜敗

 最後に笠松所属馬が地元重賞を勝った昨年6月のクイーンカップ。向山牧騎手騎乗の2番人気ドミニクが、逃げたクリノメガミエースなど兵庫勢を最後方から差し切った。ドミニクは重賞2勝目でスター候補と期待されたが、その後は順調さを欠き、出走がない。

 笠松勢は厳しい戦いが続いているが、ドミニク以来となる久しぶりの重賞勝利のチャンスはあった。新設重賞の「第1回撫子争覇」(8月)では、兵庫クイーンCなど重賞4勝馬ベニスビーチ(田口輝彦厩舎)が単勝1.6倍。吉原寬人騎手騎乗で「今度こそ」と確勝級に思えたが、後方から差し届かず。名古屋のレイジーウォリアーに敗れ、クビ差の2着。吉田勝利オーナーの持ち馬で、笠松重賞2着は3回目と勝ち切れず。次こそ「シルバーコレクター」を返上してもらいたい。

期間限定騎乗で活躍した保園翔也騎手のお別れセレモニー(笠松競馬提供)

 ■セレモニーでファン「重賞も勝って、ここに来て」

 重賞レースの表彰式以外のセレモニーでは、多くのジョッキーがにぎやかに登場し、盛り上がる笠松競馬場。「祝○○勝」の節目の勝利や、期間限定騎乗騎手の紹介・お別れセレモニーは、他場に比べて派手に開かれる。一方、重賞レースの勝利騎手インタビューは愛知、園田、金沢など他場の優勝者ばかり。取材するにしても単勝人気から結果が読めてしまい「ああ、また名古屋か園田の馬か」となる。

 セレモニーが開かれたウイナーズサークルでは「重賞も勝ってよ」「もっとここに来てほしい」と、情けない思いを募らせている常連のファンから激励の声が飛ぶ。重賞レースでの1勝は記録として残って語り継がれるし、やはり勝利の重みが違うし価値が高い。

 ■競走馬はファンの夢も背負って疾走

 グリーンチャンネルの番組では、3冠馬コントレイルを育てた矢作芳人調教師が登場。日本ダービーなどは無観客で口取りもなかったが、有観客になっって「馬券を買ってくださるファンに応援されて、パワーになっているんだなあ」と痛感したそうだ。どんなに強い馬もファンの存在があってこそ、輝きを増すものだ。

 競走馬は馬主が所有し、調教師・騎手・厩務員ら厩舎スタッフが育てて、レースでゴールを目指す。「より速く、より強く」とスピードとパワーはアスリートに求められる勝利の条件だ。競走馬は、馬主の所有物から翼を広げて飛翔。馬券を買って一喜一憂しながら応援するファンの夢も背負って疾走。人と馬とが一体となって織りなすサクセスストーリーに熱狂。2、3着に終わった敗者の健闘もたたえてくれる。

ラブミーチャン記念のパドックに向かうジョッキー。笠松勢より多い名古屋勢

 ■名古屋11勝、兵庫5勝、笠松0勝

 昨年7月以降の笠松重賞23戦(ネクストスター笠松を除く地区交流)の結果は次の通り。

 【昨年7月以降の笠松重賞23戦結果】
          =ネクストスター笠松は除く

 笠松   ①0  ②5  ③11
 名古屋  ①11  ②11  ③6
 兵庫   ①5  ②4  ③2 
 南関東  ①4  ②1  ③3
 金沢   ①2  ②0  ③0 
 北海道  ①1  ②1  ③1 
 高知   ①0  ②1  ③0

 出走頭数が多い東海公営の勢力地図は明らか。笠松勢に勝利がなく、2着5回、3着11回。一方の名古屋勢は11勝、2着11回、3着6回。弥富に移転した名古屋では「ベイサイドナイター」が行われているが、岐阜県境では木曽川リバーサイドの「植民地化」が進んでいる。

 名古屋勢の笠松での連対率は高く、大畑雅章、木之前葵騎手が4割超え。岡部誠、今井貴大騎手は3割台。笠松勢では渡辺竜也騎手の5割近い数字は突出しているが、2位の向山牧騎手は24%。名古屋勢は遠征馬が強いし、笠松側からの有力馬への騎乗依頼も多い。エース・渡辺騎手の離脱で、その傾向が強まりそうだが、こんな時こそ、地元騎手を育てるためにも、東川慎騎手ら若手4人に有力馬への騎乗機会を与えていただきたい。

2003年の全日本サラブレッドカップを制覇したレジェンドハンターと山崎真輝騎手

 ■かつては笠松馬がデイリー杯3歳Sを連覇

 かつては笠松デビュー馬が、年末には中央の重賞レースをあっさり制覇。全国の地方競馬関係者に「不思議の国」とも呼ばれた笠松競馬場だが、オグリキャップやラブミーチャンら歴代名馬の栄光は遠くなりつつある。

 1999~2000年に中央の「デイリー杯3歳ステークス」(GⅡ)で笠松のレジェンドハンター(高田勝良厩舎)、フジノテンビー(中山義宣厩舎)が連覇したのはもう20年以上前のこと。ともに笠松時代の安藤勝己騎手が手綱を取った。

 レジェンドハンターは6番人気で、ラガーレグルスらを圧倒し逃げ切り勝ち。フジノテンビーは1番人気に推され、テイエムサウスポーやツルマルボーイを破って差し切りV。ともに直前のレースで金沢重賞を勝ってデイリー杯に挑戦。デビュー1年目から積極的に他地区の交流重賞に参戦していた。

ジュニアクラウンでデビューから5連勝を飾ったワラシベチョウジャと渡辺竜也騎手

 ■現れるのか、連敗ストッパー

 笠松重賞では「救世主」となる連敗ストッパーはいつ現れるのか。年内の笠松交流重賞は11月21日の笠松グランプリ(地方全国)、12月のライデンリーダー記念(北陸・東海)、東海ゴールドカップ(東海)の3レース。このうち年末の2レースはチャンスがあり、有力馬の参戦が期待されている。

 1着賞金1000万円のネクストスター笠松を制したワラシベチョウジャ。次走は準重賞・ジュニアキング(12月7日)の予定だが、調教から渡辺騎手が乗れなくなって影響もありそうだ。「秋風」「クラウン」に続くジュニア3競走目。1着賞金はいずれも300万円で、笠松デビュー馬または所属馬限定レース。ワラシベチョウシャの成長のためには、渡辺騎手も望んでいたように地元馬との対戦だけでなく「他流試合や出稽古」のようなチャレンジ精神も必要になる。

 ■ライデンリーダー記念はチャンス

 ジュニアキングは落馬しない限りワラシベチョウシャは勝てそうだが、問題はその後。レース間隔は中2週余りとやや詰まるが、30日のライデンリーダー記念はチャンスで「笠松の新星」として交流重賞に挑戦し、ファンの期待に応えていきたい。

 笠松歴代名馬の冠レース。ラブミーチャン記念に続いてライデンリーダー記念も見送ることになれば、地元ファンはがっかりする。年明け1月11日には新設の3歳準重賞「第1回笠松若駒賞」もあるが、やはり重賞路線で全国のファンの夢も背負って駆け抜けることが真のスターホースである。
 

2019年6月の飛山濃水杯、ストーミーワンダーで重賞初Vを飾った渡辺竜也騎手(左)

 ■ストーミーワンダーのような強豪キラーに

 これまで重賞8勝の渡辺騎手にとっては、重賞初勝利をプレゼントしてくれたストーミーワンダーとの活躍が印象深い。笠松の飛山濃水杯、くろゆり賞、園田の姫山菊花賞を渡辺騎手騎乗で3連勝。カツゲキキトキト、タガノゴールドといった全国レベルの強豪を倒し、笠松の名を全国にアピールした。そんな名馬との大きな経験を生かしたい渡辺騎手。「未完の大器」ワラシベチョウジャとの重賞戦線にも力が入ることだろう。

 ■けがに強いことも名手の条件

 ジョッキーは落馬して負傷することもあるが、復帰への意識は個人差もある。以前、笠松のリーディングジョッキーは鎖骨骨折で痛々しかったが、休むことなく南関東の期間限定騎乗にも挑戦していた。驚かされたのは2018年の森泰斗騎手(船橋)。頭部など4カ所を骨折しながらも、後遺症もなく2週間でレースに復帰。大けがをしてもすぐに復帰することで有名だそうだ。10年前にはラブミーチャンに騎乗し、習志野きらっとスプリントで逃げ切り完勝。それ以来、注目してきたが、毎年300勝以上を達成する日本のトップジョッキーに成長。けがに強いことも名手の条件となる。

 笠松では深沢杏花騎手が鼻骨骨折を負ったが、翌日からレース復帰。松本一心騎手が足の捻挫で療養中。渡辺騎手は重傷で復帰はいつになるのか。騎手不足の笠松競馬では痛すぎる若大将の戦線離脱だが、多くのファンらが「復活の日」を待ち望んでいる。

笠松グランプリ開催をアピールするポスター

 ■21日に笠松グランプリ、川崎からルーチェドーロら3頭

 秋のビッグレース「笠松グランプリ」(1着賞金1000万円)の選定馬が発表された。シリーズ初日の21日に開催され、川崎から強豪3頭。昨年の勝ち馬ルーチェドーロに藤原幹生騎手が騎乗。3着馬ベストマッチョには岡部誠騎手、エアアルマスには笹川翼騎手が騎乗する。北海道からクーファアチャラ(落合玄太騎手)、兵庫からはパールプレミア(笹田知宏騎手)が参戦予定。笠松勢では森山英雄厩舎のストームドッグに期待。展開が向けば追い込みでチャンスも。

一昨年の東海ゴールドカップは大原浩司騎手(左から2人目)騎乗のウインハピネスが制覇した

 ■東海ゴールドカップはウインハピネスに期待

 当日はアンカツさんのトークショー&予想会も開かれ、事前に募集されたファンの質問に答えるコーナーもある。「現在、体重は何キロですか」といった質問もあったが、爆笑トークは楽しみだ。

 大みそかの大一番・東海ゴールドカップは東海所属馬限定で、笠松馬にも大チャンス。一昨年の勝ち馬ウインハピネスは古馬の大将格で、笠松勢久々の重賞勝ちも狙えそうだ。主戦は大原浩司騎手で、マーチカップ2着後、オープンを2連勝。笠松では26戦して全て3着以内、複勝率100%という超堅実馬。東海ゴールドカップでは健在ぶりを示して、地元重賞で連敗ストッパーとなりたい。

2022年9月、国内最高齢の出走新記録を達成したヒカルアヤノヒメと尾崎章生騎手(右)ら関係者(名古屋競馬提供)

 ■19歳まで現役、ヒカルアヤノヒメ旅立つ

 名古屋競馬によると、日本最高齢の現役競走馬として多くのファンに親しまれてきた19歳牝馬ヒカルアヤノヒメ(井上哲厩舎)が調教中の負傷により、厩舎で療養していたが、11月15日に心不全のため亡くなった。

 ヒカルアヤノヒメは317戦14勝(うち笠松で4勝)。9月の金沢・高齢馬レース「敬馬賞」にも登録されていたが、出走を回避。「暑さも続いているし、遠征は大変だから」と無理はさせられなかった。最後の勝利は8年前の笠松。年が近い深沢杏花騎手も7回騎乗し、最高は4着。笠松競馬の人気誘導馬エクスペルテ(19)やウイニー(19)とは同世代だった。応援してきたファンの一人として非常に残念で、関係者のご努力に感謝するとともに、ご冥福を祈りたい。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。