東海ゴールドカップを制覇したストームドッグと向山牧騎手(左から2人目)ら喜びの関係者

 長かった、1年半ぶりに歓喜のVゴール。笠松所属馬は地元交流重賞で25連敗中だったが、大みそかの大一番「第52回東海ゴールドカップ」(SPⅠ、1900メートル)で連敗記録をようやくストップさせた。向山牧騎手が騎乗したストームドッグ(セン馬6歳、森山英雄厩舎)が鮮やかに差し返す「逆転サヨナラ弾」で暗雲を吹き払った。

 笠松のベテラン騎手2人が死闘を繰り広げた。向山牧騎手(58)と馬渕繁治騎手(57)。50代の2人が騎乗した2頭による抜きつ抜かれつの追い比べは見応えがあった。連敗ストッパーとなったのは新潟時代から重賞Vが多く、ここ一番で頼りになる向山騎手だった。プロ野球などでも大型の連敗中は経験豊かなベテランの力が必要とされるが、50代コンビの手綱さばきが光り、2023年の最後に「笠松馬ワンツー」という最高のパフォーマンスを見せてくれた。

最後の直線、激しい追い比べでナリタブレード(右)と競り合うストームドッグ

 ■向山牧騎手、逃げる作戦で一発勝負

 東海ゴールドCは年の瀬を彩る名物レースで1着賞金は700万円。笠松から8頭、名古屋から3頭が参戦した。ストームドッグは、脚質的には好位差しタイプだが、初騎乗の向山騎手が逃げる作戦で一発勝負に出た。4カ月ぶり実戦で、森山調教師は「季節を通じて体調の変動が少ない。リフレッシュ効果もあって持ち直している。流れに乗った競馬ができれば」と向山騎手に手綱を任せた。

 後方からまくり気味に向正面で一気に先頭を奪ったのが馬渕騎手騎乗の1番人気ナリタブレード(牡6歳、森山英雄厩舎)。残り600メートルを切って、ストームドッグとナリタブレードのマッチレース。森山英雄厩舎の2頭が抜け出し、地元馬による重賞制覇への期待感が場内に充満した。

ハナ差で東海ゴールドカップを制したストームドッグと向山騎手(笠松競馬提供)

 ■ストームドッグが差し返し、ナリタブレードにハナ差勝利

 4コーナーでは再びストームドッグが差し返した。この時点で「笠松所属馬の勝利はもう間違いない」と連敗ストップを確信した。最後の直線は円熟味を増した両ベテランによる激しいたたき合い。残り100メートルを切ってナリタブレードが再び前に出る勢いだったが、ゴール手前でグイッと最後の一伸びをしたのはストームドッグ。2頭が並んでゴールイン。写真判定の結果、ストームドッグがハナ差で先着。63戦目で重賞初制覇を飾った。

 勝ったストームドッグ。これまでの12戦は馬渕騎手が手綱を取って3勝。笠松重賞では3着2回と好内容だったが、今回は東海ゴールドカップのトライアルを勝ったナリタブレードに騎乗した。勝敗は微差で、馬渕騎手にとっては非常に惜しい結果となった。

 ファンからは「2008年のダイバクフ以来となる重賞制覇を馬渕騎手に飾ってほしかった」との声も聞こえてきたが、自厩舎・ストームドッグの主戦として、また騎乗して重賞に挑む機会もあるだろう。馬渕騎手1000勝達成時のインタビューでは「ストームドッグで重賞を勝ちたかったですね。まだチャンスはありますかねえ」と話していたが、皮肉なことに向山騎手に手綱を譲ったレースでストームドッグは重賞Ⅴを果たした。この日のレースは、なんと言っても向山騎手の思い切った逃げと、しぶとく差し返したストームドッグの粘りが素晴らしかった。

「うれしいです」と激戦を制した喜びを語る向山騎手(左)

 ■際どいゴール、牧さん「もしかして勝ったのでは」

 表彰式での口取り撮影では、久しぶりに「地元騎手&地元馬」で歓喜に浸る関係者の顔がそろった。一昨年6月、クイーンカップをドミニクで勝ったのも向山騎手だったが、それ以来の地元馬重賞Ⅴをベテラン勝負師がもたらしてくれた。自在性があるストームドッグにハナを切らせて主導権を握り、しぶとく競り合いを制し、地元勢の意地を見せた。

 勝利騎手インタビューで向山騎手は、年越しのビッグレース制覇に「そりゃ、うれしいですよね。ゴールでは勝ったとは思わなかった。ちょっとかわされていて、また差し返したので、もしかして勝ったのではと」。

東海ゴールドカップ表彰式には柴山雄一騎手(右から3人目)と田口貫太騎手(同2人目)も参加した

 初コンビでの逃げについては「スタートがいいので、前に行った。引っかかる馬なので、折り合いだけ気を付けた」。2着馬が迫ってきて「あっちの馬の方が強いのかなあと思っていたが、直線になったら僕の馬が前に出たので、勝てるのではと懸命に追った。また僕が乗るか分からないが、乗せてもらった時は頑張りたい」と話し、ホッとした表情だった。

 表彰式ではトークショーを終えた柴山雄一騎手(昨年12月31日付でJRA騎手引退)と田口貫太騎手が、向山騎手に花束を贈って勝利をたたえた。

 2頭以外では3着に名古屋のアルバーシャが突っ込んだ。田口輝彦厩舎からは重賞勝ちがある3頭が参戦。佐賀の飛田愛斗騎手が騎乗したベニスビーチ、中央から戻ったイイネイイネイイネ、岐阜金賞勝ちがあるダルマワンサはいずれも掲示板を外した。森山厩舎のもう1頭、笠松で26戦連続3着以内だった2番人気・ウインハピネス(大原浩司騎手)も差し脚不発で6着に終わった。

 笠松勢2頭による向正面からのマッチレース。交流重賞の連敗記録をストップし、競馬場関係者も胸をなで下ろし、スッキリと新年を迎えることができた。
 

笠松競馬の所属騎手がパドック前で整列し、大原浩司騎手会長が年末のあいさつを行った

 ■ファンへ感謝、騎手あいさつ&餅まき

 大みそかの4R終了後には、4年ぶりに笠松競馬所属騎手による年末のあいさつがあった。スタンド前では餅まきも行われ、大勢のファンでにぎわった。直前まで雨が降っていたが、急に晴れ間も見えて、大原浩司騎手会長は「今年最後の日にお越しいただきありがとうございます。新年も関係者一同、より良い笠松になるよう頑張っていきますので、よろしくお願いします」とファンへの感謝の気持ちを込めた。

「餅まき」は、混乱がないように騎手が1袋ずつ来場者に手渡した

 ファンお目当ての餅まき。以前は騎手たちがスタンド方面に向かって、豪快に投げ入れていた。それはそれで大いに盛り上がっていた。10袋以上キャッチできた覚えもあるが、奪い合いで転倒する危険もあって、ラチ沿いで配布されるようになった。コロナ禍で久々となった今回は、列をつくって並んだファン1人ずつに手渡す方式。騎手たちも1列になって、混乱がないように用意された餅を1袋ずつ配った。ラチ沿いは雨で滑りやすくなっていて、騎手が転倒するハプニングもあり、「落馬したか」と吉本隆記騎手(佐賀から期間限定騎乗)の驚いた声も聞こえた。深沢杏花、長江慶悟、松本一心騎手は「初出場」で楽しそうにお餅をファンに手渡していた。

ライデンリーダー記念、1着でゴールするミトノユニヴァースと岡部誠騎手

 ■ライデンリーダー記念は名古屋のミトノユニヴァースV

 北陸・東海交流の2歳オープン「第27回ライデンリーダー記念」(SPⅠ、1400メートル)は、名古屋のミトノユニヴァース(牡2歳、角田輝也厩舎)が最後の直線であっさりと抜け出して圧勝した。

 金沢から2頭、笠松から6頭、名古屋から4頭が参戦した。単勝1.3倍と断トツ1番人気のミトノユニヴァースに岡部誠騎手が騎乗し、死角なし。笠松のクリスタライズ(後藤佑耶厩舎)には金沢の青柳正義騎手が騎乗しハナを切り、4コーナーまで先頭をキープした。

 ミトノユニヴァースは3、4番手から追撃。4コーナーを回って、外からクリスタライズをかわすと、あとは突き抜けてワンマンショー。1分27秒0の好タイムで完勝。岡部騎手はライデンリーダー記念連覇で通算4勝目となった。

ライデンリーダー記念Vの喜びに浸る関係者

 ■岡部騎手「奥の深い走り方で、今後につながるレース」

 会心の勝利を飾った岡部騎手。前走のゴールドウイング賞で惜敗し「人気馬で負けていたので、リベンジとして勝たせてあげられてホッとしています。ペースは速かったが、いいポジションを取れて1コーナーぐらいで大丈夫かと。スピードに乗ってからは突き放して奥の深い走り方で、今後につながるレースだった。加速して長くいい脚を使ってくれることがセールスポイント」と強い勝ち方に満足そう。「ゴール前で皆さんの歓声が聞こえて、やっぱり競馬っていいなと思いました。これからも東海競馬を応援してください」とファンに感謝の気持ちを伝えた。

ライデンリーダー記念の表彰式には草野仁さん(右)も参加した

 この日、トークショー&予想会を行ったキャスターの草野仁さんから岡部騎手に花束が贈られると、ファンにプレゼント。勝ち馬について「最後もしっかり動き、いい感じで締めくくることができた」。今後については「極端にもまれ込んだ時にいいパフォーマンスができるか。成長分があるから、失敗を恐れずにいろいろと試して挑戦していければ。いいんじゃない」と笑顔で、3歳重賞戦線への手応えをつかんでいた。

 ■笠松のクリスタライズ、逃げて見せ場たっぷり

 2着は名古屋のニジイロハーピー(大畑雅章騎手)、3着は金沢のハリウッドスマイル(田知弘久騎手)。笠松最先着は逃げたクリスタライズ。4コーナーまで先頭で見せ場たっぷり。地元馬の重賞制覇も期待され、地元ファンや応援団が大きな声援を送った。陣営は「いい感じで走れてリードを保てていたが、外からのスタートが最後に影響したのか。今後は、ためる競馬もさせてみたい」と。青柳騎手からは「折り合いも良く乗りやすかった。早めに仕掛けていって、しまいはちょっとは苦しくなった」とのことだったが、持てる力は出し切った。

 ■馬券販売計26億円、飲食店や軽トラ市も大にぎわい

年末4日間で1万人を超える入場者があった笠松競馬場。飲食店も盛況だった 

 年末特別シリーズは、開門前から大勢のファンが並んで盛況だった。場内では使用済みゼッケンのプレゼント、トークショー、ラーメンフェスタなどのイベントも人気を集めた。家族連れやウマ娘ファンの若者の姿も目立ち、場内の飲食店前には串カツ、おでん、焼き餅など競馬場グルメを求めて長い行列ができていた。正門前では愛馬会の軽トラ市も人気を集め、オークションでは引退したナラ(深沢杏花騎手のサイン入り)のゼッケンが高値を付けていた。

にぎわった愛馬会の軽トラ市

 入場者は4日間で1万人を超えて大入りだった。馬券販売額は計26億3500万円。魅力あるレースが増え、イベントも盛りだくさん。ファンを呼び込もうとアイデアを練る競馬場関係者の努力が実った。

岐阜新聞・岐阜放送杯は丸野勝虎騎手(左)騎乗のエンジョイリッキーが制した(笠松競馬提供)

 ■岐阜新聞・岐阜放送杯は生え抜きエンジョイリッキーV

 2日目11Rで行われた3歳オープンの岐阜新聞・岐阜放送杯(1600メートル)は、丸野勝虎騎手騎乗のエンジョイリッキー(田口輝彦厩舎)が1番人気に応えて逃げ切りV。2着馬に7馬身差で5連勝を飾った。毎年順当な結果が多いレースで、今回も1→2→3番人気で決まり3連単は550円だった。

 「しぶとい脚質なので、先行して行き切ってしまえば何とかなると。距離もあまり問わないし、乗りやすい馬」とV5を果たした丸野騎手。笠松生え抜きで、岐阜金賞3着馬。タイムも1分41秒5と優秀。4歳になって、どんな成長を見せてくれるか。今後の古馬重賞戦線でも注目したい1頭だ。

オグリキャップのベストレース、1番人気は1990年の有馬記念

 ■「オグリのベストレース」は90年・有馬記念62票で断トツ

 正門横のオグリキャップ像近くでは「オグリの里・聖地編」の販売コーナーを開設。「オグリのベストレースといえば○○だ」の人気投票も実施した。結果は予想通り、ラストラン・有馬記念(1990年)が62票を獲得し、ぶっちぎりで1着ゴールを決めた。2位はマイルCS(89年)で24票、3位はジャパンC(89年)が13票で続いた。

 マイ・ベストレースは89年の毎日王冠で4位にランクイン。イナリワンとの死闘は、オグリが差し返してのハナ差勝利。映像では負けたようにも見えたが、写真判定でのハナ差勝ちにはしびれた。さすがと思えたのが、88年のニュージーランドトロフィーへの投票。初代オーナー・小栗孝一さんの娘さんの1票で「安心して見ていられた」という。オグリの東上初戦で「こんな強い馬がいたんだ」と関東の競馬ファンを驚かせた一戦だった。前回「オグリのライバルといえば」ではタマモクロスが断トツ人気だったが、ファン心理は微妙で88年の天皇賞・秋や有馬記念は意外と伸びなかった。

開門ととともに入場する大勢のファン

 ■ソウルからもオグリキャップファン来場

 当時のオグリキャップのレースを体感したファンも、映像で見たという若者も、ご投票ありがとうございました。昨春のウマ娘シンデレラグレイ賞開催日には台湾からも来場され、楽しく交流できたが、今回は韓国のソウルから来場したという熱いオグリファンの若者にも本を購入していただいた。笠松競馬場は海外のファンにも「オグリキャップの聖地」として知られるようになってきた。

 ■「能登半島地震被災地支援レース」を実施、場内に募金箱も

 岐阜県地方競馬組合では1月9~12日の4日間、「能登半島地震被災地支援レース」を実施する。各日の第5レース(計4レース)で、馬券販売額の1%相当額を義援金として寄付する。場内には当面の間「被災地支援募金箱」を設置する。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。