場内の清流ビジョンで映し出された「オグリの里・新風編出版記念」のレース名

 ここはオグリキャップがデビューした聖地・笠松競馬場。「オグリの里2新風編」の出版会と協賛レースが23日開かれ、聖地巡礼のウマ娘ファンや家族連れも多く来場。新刊を買い求めて熱戦を楽しんだ。

 新風編の主役の一人として注目した渡辺竜也騎手は、5日間開催の白銀争覇シリーズ中に何と「騎乗機会8連勝」の偉業を達成した。

 ■今度はアンカツ超え圧巻「騎乗機会V8」

 確認可能な笠松記録である安藤勝己騎手の「7連勝」(1997年10月)を突破したのだ。渡辺騎手は新刊発売を祝うかのようなゴールラッシュを見せてくれた。川原正一騎手が持っていた年間最多勝記録の更新(一昨年末)に続いて、圧巻の8連勝で新たな「レジェンド超え」を果たした。

サトノキャサリンに騎乗し、騎乗機会8連勝を達成した渡辺竜也騎手(笠松競馬提供)

 雨の中、あっさりと「Ⅴ8ゴール」を決めてしまった渡辺騎手。まだ23歳の若武者だが、笠松レジェンドたちの偉大な記録を次々と塗り替えている。レース中の落馬負傷で2カ月半休んだが、1月後半戦から戦列復帰し、勝利を量産している。      
 
 2月20日の笠松6R、自厩舎のハーイで勝って始まった快進撃。そのハーイは一昨年末、川原騎手の笠松最多勝記録に並んだ縁起の良い馬でもあった。

 最終10Rまでノンストップで5連勝を決めると、関係者やファンたちも記録更新の期待を込めて騒がしくなった。笠松の連勝記録は果たして何勝なのか。2014年に吉井友彦騎手が1Rから6Rまで、きれいに白星を並べるすごいパフォーマンスを見せたが、リーディングの常連だったアンカツさん、川原騎手の時代はどうだったのか。

記録更新で装鞍所に戻ってきた渡辺騎手

 ■「この男、プレッシャーなど感じないのか」

 記録を調べてみると、1997年10月19~20日に、JRA移籍前の安藤勝己騎手が、オグリエンゼルからエフワンライデンまで騎乗機会7連勝を達成していた。このほか笠松時代の川原騎手が6連勝を4度もマークしていた。連勝記録は騎乗馬次第のところもあるが、川原騎手の記録を見ると「6勝」と「7勝」の間には壁があるようにも感じられた。 

 開催2日目の5連勝で渡辺騎手は闘志に点火。3日目2Rでは、確勝級の人気馬で楽々6連勝目をゲット。続く3Rは3番人気だったが、ここも通過点。アンカツさんの7連勝にあっさりと並んでしまった。「この男、プレッシャーなど感じないのか」。いつも通り「平場でも重賞でも、やることは変わらない。ひたすらゴールを目指すだけ」と淡々とこなす騎乗スタイル。人気馬にも恵まれて、好結果につなげている。

スタンド前を駆けるサトノキャサリン&渡辺騎手

 迎えた5R、自厩舎のサトノキャサリン(牝4歳、笹野博司厩舎)に騎乗。新記録達成の期待感もスタンドのファンらに充満し、単勝2.4倍に押し上げられて1番人気。2番手から向正面で逃げ馬をかわすと「V8ロード」を一直線。アンカツさん超え達成となる鮮やかなゴールイン。レースの実況アナが記録更新を伝え、場内は熱気に包まれた。

 装鞍所に戻ってくると、笹野調教師や厩務員らの祝福を受けた。ここ一番でズバッと決める勝負強い男が真価を発揮した。

8連勝の喜びに浸る渡辺騎手

 ■「記録が見えた時に更新しておきたい」

 渡辺騎手に喜びの声を聞いた。

 -8連勝でアンカツさんの笠松記録を抜いたとみられます。

 「この記録はうれしいです。あまり意識はしていなかったですが、みんなに言われてたんで知っていました」

 -自厩舎のサトノキャサリンで達成しましたね。

 「その馬には、勝てそうだなあと期待していたので、結果につながって良かったです」

 -最多勝とか連勝とか、記録がかかった時にすごく強いね。

 「記録が見えた時に更新しておきたいと思っていたんですが、今までうまくいきすぎかなとも思っています」

 ■「勝って戻ってくる度に、みんなに記録を言われて」

 -「8連勝」という数字はどうですか。

 「運が良かったなあと。意識して乗っているわけではなく、8連勝も結果的にそうなったので。(実況の)鈴木アナの『5連勝』という声も聞こえたんで。きょうは最初のレースから厚めの印をもらっていて、連勝(6)を意識した。それ以降はそんなに期待しなかったが、8連勝という結果につながって良かった。もちろんどのレースも勝とうと思って乗っているんでね」

 -川原さんは笠松時代に6連勝が4度あり、7連勝には壁もあったが。

 「タイミングが合ったり、運が良かったり。連勝はもちろん周りからのプレッシャーもあったんですが、勝って戻ってくる度に『何連勝だ、何連勝だ』と言ってもらって、7連勝した時には『記録に並んだ』とか。いろんな人に言ってもらったんで、一つぐらい更新したいなと。サトノキャサリンは自信があったんでね」

渡辺騎手を迎える厩舎スタッフ

 ■「いい馬にたくさん乗せてもらっている」

 -2、3番手から3コーナー辺りで先頭を奪う競馬が多いですね。

 「前の馬が止まりづらい馬場状態なので、前めの位置につけたかったし、早仕掛けしてもいいかなあと」

 -勝率も意識しますか。これで3割5分以上になり、4割近い赤岡修次騎手(高知)に続き全国2位ですよ。
 
 「いや特に意識してないです。連勝記録もそうですが、勝率はもちろん全部勝てれば上がるわけで。勝ちたいと思って乗っているし、やっていくことは変わらない。その結果、勝率が高ければ自分の自信につながるなと」

 -関東や兵庫などの騎手は乗り鞍も多くて、勝利数や獲得賞金では届かないが、勝率ならNARのタイトルで全国トップも狙える。
         

 「厩舎を含めて、いい馬にたくさん乗せてもらっているので、結果で返していければと思います」
          
 -NARベストフェアプレイ賞では、表彰に行かないのですね。

 「行きたかったですが、笠松のレースもあって、遅れて行く予定でしたが、時間までに来てくれと。賞がもらえないわけじゃないので、こっちで乗ろうかと」

渡辺騎手8連勝のレースで2着だった東川慎騎手(左)

 ■「3週間ほど飯抜きで過ごしました」

 「渡辺騎手8連勝」と実況で伝えた鈴木努アナの質問にも答えて。

 「連勝で気持ちが上がりますね。プレッシャーとか感じずに、自分の中で高めていくタイプなんで。期待されているなと思って。いい馬に乗せてもらって重賞も勝たせてもらっているんで。高いモチベーションを保って、ストレスなく乗れている。馬を走らせる方に集中しています」

 昨年10月の落馬事故で、けがの回復具合については。

 「笑ったりすると、口がゆがんじゃったりするんですよ。痛みとかはなくて、馬に乗るのには支障はないので、それは良かったです。2週間ぐらい入院していましたが、3週間ほど飯抜きで過ごしました。顎が折れちゃって動かせなくて力が入らず、かめなくて。鼻から胃に管を通して、栄養剤で過ごしました。一気に4キロぐらい体重が落ちたかなあ。復帰して、体力は前と変わりないです。入院中は病院内を歩いたり、暇つぶしにゲームをしたりしていました」

 ■1開催16勝、勝率は赤岡騎手に迫る.372

 「V8」ということで、騎乗時のV字の勝負服姿になってもらって写真撮影。まだ思い切り笑えないようだが、徐々に表情も豊かになってきたし、騎乗ぶりは白星量産で完全復活といっていい内容。8連勝達成時に最低の7番人気馬で2着に追い込んだ東川慎騎手とのツーショットで、記録更新を祝った。

 渡辺騎手の勢いは止まらない。4日目も4連勝があり、恐るべし23歳。1開催で16勝を挙げて勝率はグーンとアップ。.382の赤岡騎手に迫る.372。地方競馬の全国トップに手が届く位置につけた。笠松、名古屋はもちろん、全国の重賞戦線でも活躍がもっと見たい名手である。年明けにはニジイロハーピー(名古屋)で兵庫クイーンセレクションを勝っており、今後は他地区からの騎乗依頼も増えそうだ。

「オグリの里2新風編」を買い求めるファン。奥にはオグリキャップ像の姿も

 ■「オグリの里2新風編」出版、幅広い世代に人気

 白銀争覇シリーズ、天気予報は雨マークが目立ち「最終日は何とか曇り空で」の願いは通じず、午前中は小雨となった。「オグリの里2新風編」の出版会はオグリキャップ像近くで開かれ、聖地巡礼の若者をはじめ幅広い世代の笠松ファンたちが新刊を手に熱戦を楽しんだ。

 祝日開催で入場者は1656人。若者グループや家族連れが目立った。6R「オグリの里・新風編出版記念」スタート前には、実況アナが協賛レースについて「オグリキャップの聖地巡礼に1冊どうぞ。ヒット作品『オグリの里1聖地編』に続いて『2新風編』を発売しました。ウマ娘ファン熱狂、渡辺騎手YJSファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の新しい風をお伝え。ウマ娘ファンも笠松競馬の歴史と魅力を知ってほしい」と紹介した。

 ■各時代の「新しい風」を追って

 「オグリの里」は2016年から岐阜新聞Webで連載中の競馬コラムで、書籍としてシリーズ化。オグリキャップら歴代名馬やアンカツさんら名手の活躍を振り返り、笠松競馬の光と影にもスポットを当てた。

 第1巻・聖地編に続く第2巻・新風編では、ウマ娘ファン、渡辺竜也騎手、ライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。

 オグリキャップ関連の記事も多く、バブル真っただ中の1989年「天皇賞・秋」観戦記なども収録した。まだインターネット販売などなく、紙馬券が全盛。JRAの場内でも場立ちの予想屋の声がにぎやかだった古き良き時代。オグリ陣営が最も勝ちたかった天皇賞・秋。タマモクロスとの芦毛対決や、南井克巳騎手の騎乗でも2着に終わった悔しいレースを回顧した。           

「オグリの里・新風編出版記念」で3頭たたき合いを制したキャッチザロマンス(3)と馬渕繁治騎手

 オグリキャップ像近くで「オグリの里・新風編」の出版会がスタート。お昼には雨も上がり、協賛レースは8頭立て。3コーナーから人気上位3頭の追い比べとなり、馬渕繁治騎手騎乗の2番人気・キャッチザロマンス(牝4歳、森山英雄厩舎)がゴール前でグイッと一伸び。競り合いを制した。

「オグリの里・聖地編出版記念」のゼッケンを手にした馬渕騎手(左)

 ■希望のゼッケン番号通り「3番」の馬渕騎手Ⅴ

 昨年の聖地編協賛レースでは名古屋の村上弘樹騎手が勝っており、今回も大畑雅章騎手のファンタジスタが断トツ人気だったが、笠松勢の馬渕騎手が意地を見せてくれた。事前に用意された希望のゼッケン番号は「3番」だったが、勝ったキャッチザロマンスもズバリ3番とは。単勝の全通りと馬連などを買っていたが「トリガミ」。単勝、馬単でもっと買っておくべきだった。
 
 昨年はコロナ禍もあって、ゼッケンを手にしたジョッキーと一緒に写真撮影はできなかったが、今年は復活。馬渕騎手のサイン入りゼッケンをゲットすることができた。

「あなたの笠松での推し馬は?」の人気投票

 ■「推し馬」ジナコやショウナンハルカゼ人気

 「オグリの里・聖地編」の販売コーナーでは、幅広い世代の競馬ファンが関心を示し、本を買い求めていただいた。来場者は「推し馬」の応援に来た人も多く、岐阜市の19歳男性は「ショウナンハルカゼと渡辺竜也騎手が好き」と、滋賀県の女性は「沖田明子厩舎の芦毛馬エベレストテソーロの応援に」と。ミニコーナー「あなたの笠松での推し馬は?」の人気投票では、ジナコが1番人気でショウナンハルカゼ、パステルモグモグと続いた。

「FC岐阜×笠松競馬コラボイベント」も開かれ、FC岐阜開幕戦への来場などをアピールした

 ■FC岐阜×笠松競馬コラボイベントも

 場内では「FC岐阜×笠松競馬コラボイベント」も開かれ、元日本代表FWでFC岐阜クラブアンバサダーの田中順也さんと、岐阜県出身でFC岐阜副応援隊長の太田彩夏さん(SKE48)がトークショー&予想会に参加。FC岐阜のJ3今季開幕戦(24日・長良川競技場)への来場も呼び掛けた。

 田中さんは「競馬は初めてで、ビギナーズラックを期待」。太田さんは「小さい頃から父に連れられて笠松競馬場へ来ていた。今日は馬券を当てたい」と意欲。◎△▲で3連単を的中させていた。笠松グルメトークやじゃんけん大会でも盛り上げていた。

 9RメインのFC岐阜協賛レースでは、厩務員らも応援のTシャツ姿でパドックを周回し、「開幕戦!集え長良川」をアピールしていた。 


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

※ファンの声を募集

 競馬コラム「オグリの里」に対する感想や意見をお寄せください。投稿内容はファンの声として紹介していきます。(筆者・ハヤヒデ)電子メール h-hayashi@gifu-np.co.jp までお願いします。