「ハナ差、クビ差、勝ったのはどっちだ」。ウマ娘レースの激闘に、聖地巡礼で笠松競馬場デビューを果たした若者たちも熱狂した。
芦毛馬10頭によるシンデレラグレイ賞やオグリキャップ記念のトライアル重賞。後半戦は小雨となったが、11Rまでウマ娘関連の冠レースが続き、良馬場のまま12Rの飛山濃水杯まで、出走全馬が無事完走した。
■122万円大荒れや「笠松グルメ完食V」
レース名でも来場者を楽しませ、4R「劇場版ウマ娘新時代の扉カップ」はクセ馬ぞろい。7→9→6番人気で決まり、3連単は122万円と大荒れ。
ランチタイムの5R「笠松グルメ食べ尽くせオグリ特別」では笠松、名古屋のリーディングが見応えのあるエース対決。渡辺竜也騎手・エイシンレアが岡部誠騎・イイネイイネイイネに食らいついて差し切り「笠松グルメ完食V」のゴールとなった。
6R「ようこそシュヴァル笠松へ特別」には川崎から名古屋に移籍したルーチェドーロが参戦。笠松グランプリ連覇の実力馬で、A2組であっさりV通過を果たした。
■フジマサマーチ賞、2年目の松本一心騎手制覇
9Rからは笠松所属馬限定のウマ娘賞3レースに突入。いずれも1400メートル戦で「第1回ウマ娘フジマサマーチ賞」(B級特別)はオグリキャップのデビュー戦で競り勝ったマーチトウショウの冠レース。人気漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」にも登場し、オグリと「元祖芦毛対決」の名勝負を繰り広げた。笠松時代から中央移籍後の活躍を描いたコミックスは14巻目となり、発行部数600万部を超えた。
9頭出走のフジマサマーチ賞を制したのは松本一心騎手騎乗の2番人気・ハンデンキング(牡6歳、川嶋弘吉厩舎)。2番手から3~4コーナーで先頭を奪い、押し切った。1馬身差の2着に森島貴之騎手のモーニングフジ(牝6歳、水野善太厩舎)。
有馬記念Ⅴのマツリダゴッホ(種牡馬は引退)の産駒が制し、デビュー2年目の松本一心騎手が初騎乗でうれしい勝利。オグリキャップの笠松時代のライバルとして「フジマサマーチもウマ娘のキャラクターになってほしい」と願う笠松ファンは多い。
■ベルノライト賞は東川慎騎手ハナ差Ⅴ
10Rは栗毛馬限定の「第2回ウマ娘ベルノライト賞」(C級特別)で7頭が出走。東川慎騎手騎乗のデイライト(牡4歳、加藤幸保厩舎)が制覇した。同じ厩舎のアイファーダイオウに岡部騎手が乗り先行。最後の直線では2頭による激しいたたき合いとなり、ゴール直前でデイライトがグイッと一伸び。写真判定の末にハナ差勝ち。栗毛の美しい馬体が躍動。スタンド前のデッドヒートはウマ娘ファンたちを魅了した。
ベルノライトは、漫画ではオグリキャップと同期の親友で、10勝を飾った牝馬のツインビーとみられている。直接対決はなかったが、オグリの中央入り後はサポート役も果たした。
フジマサマーチ賞の松本一心騎手に続いて、若手ジョッキーの活躍が目立ち、2番手から鮮やかに差し切った東川騎手の手腕が光った。
■シンデレラグレイ賞「芦毛伝説」を今に
11Rはオグリキャップとマーチトウショウの死闘など「笠松での芦毛伝説」を今に伝える一戦。
芦毛・白毛馬限定の「第3回ウマ娘シンデレラグレイ賞」(C級特別)で10頭が出走した。白毛馬は非常に少なく、笠松で初勝利を飾った名古屋のアオラキの登場もファンの間では期待されたが、既にA級馬のため参戦できず。フジマサマーチ賞がB級特別であるのに対し、シンデレラグレイ賞は格下のC級特別で実施。これはやはり芦毛馬も少なく、10頭そろえようとすると「C級なら可能」ということだ。
■内馬場パドック前で騎手一礼、拍手と声援
日本の競馬場で唯一、世界的にも珍しい内馬場パドックにマイクロバスで登場したジョッキーたちが整列。スタンドに向かって一礼すると、ファンから「頑張れよー」の声援とともに拍手が送られ、笠松競馬場ならではで全国的には珍しい光景となった。
特にヤマニンカホンでシンデレラグレイ賞初代女王に輝いた深沢杏花騎手が、ファンの前で深々と頭を下げるシーンは印象的で好評だ。返し馬も独特で、至近距離のラチ沿いではスマホなどを手にしたファンが熱い視線を送った。
シンデレラグレイ賞で1番人気になったのは、前走・臥龍桜特別1着で笠松3連勝中のエイシンセブン(牡4歳、水野善太厩舎)。馬渕繁治騎手の騎乗で単勝1.4倍。ルリオウ(田口輝彦厩舎)が3.2倍で一騎打ちの様相となったが、最後は大どんでん返しで見応えのある結末となった。
■小雨の中「行け、行けー」と熱い声援
小雨の中、ファンファーレが高らかと鳴り響くと大きな拍手が送られた。ゴールドシップ産駒の出遅れはなく、10頭が一斉にスタート。最初のスタンド前では馬券を握りしめたファンらが「行け、行けー」と熱い声援。断トツ人気のエイシンセブンはルリオウの追撃をかわして逃げ切ろうかという勢いで4コーナーを回った。
■エイシンセブン勝利目前、1頭飛んできた
「渡辺行けー」「岡部頼むぞ」と推し騎手を応援する声も飛び交った。エイシンセブンは最後の直線で後続を3馬身ほど引き離し、勝利目前だった。そこへ名古屋・細川智騎手騎乗の4番人気・サルジュターグ(牡4歳、栗本陽一厩舎)が飛んできた。「8来い、8来い」「いいぞ、いいぞ頑張れ」と大声が飛び、スタンド一帯は野外ライブ会場のような熱気がみなぎった。
■細川騎手、サルジュターグでクビ差の勝利
ゴール寸前、逃げて脚色が鈍ったエイシンセブンを、大外から鋭い切れ味で差し切ったサルジュターグ。タイムは1分29秒2でクビ差の勝利となった。
スタンドからは全10頭の無事完走をたたえる温かい拍手が湧き起こり、ウマ娘のトレーナーたちもゴールを目指して疾走する競走馬たちの頑張りに感激。アスリートである芦毛一色の馬たち10頭が一斉に駆け抜ける姿は壮観で、ウマ娘シンデレラグレイ賞ならではの心温まる雰囲気と魅力が詰まったレースになった。
■2着・馬渕騎手、3着・渡辺騎手
2着エイシンセブンに騎乗した馬渕騎手は1番人気を背負ってプレッシャーもあっただろう。激しい先陣争いから抜け出し、快調に飛ばしていたが、ゴールまであと一歩のところで惜敗。渡辺竜也騎手はヘキレキイッセン(笹野博司厩舎)で3着に食い込んだ。過去2回のシンデレラグレイ賞では1番人気が勝ち、3連単は4000円台、6000円台だったが、今回は4番人気馬の末脚勝負がはまり、2万5350円でチョイ荒れとなった。
勝ったサルジュターグの馬名は芦毛をイメージした「雪の冠」で、一つでも多く勝てるようにと名付けられた。中央未勝利から笠松で2勝を挙げ、中央に復帰したが2桁着順が続いて、再び笠松へ戻ってきてくれた。
2年連続2着のゴールドシップ産駒は3頭出走。昨年5着のフルールエトワールがメンバー中ただ1頭、2年連続で参戦したが7番人気で4着。ルリオウが5着、マイネルパーヴェルは8着に終わった。
■先生に甘えるような愛らしいしぐさ
サルジュターグに騎乗し、豪快に差し切った細川騎手。装鞍所前に戻ってくると、「おめでとうございます」の声が相次ぎ、愛馬を囲んで記念撮影が行われた。サルジュターグは手綱を持つ栗本調教師に「僕、頑張ったよ」と顔をすり寄せて甘えるようなようなしぐさも。愛らしい姿を見せてほほ笑ましい口取りシーンとなった。
■「脚をためてよく伸びた、ゴール前はかわせると」
細川騎手は「良かった。前半は、みんな前へ行ってくれたから脚をためられた。思ったより3コーナーから手応えがまだあった。流れが速かったし、4コーナーまで我慢して最後の直線で追ったら、よく伸びて勝った。ゴール前はかわせると思った」と馬の能力を最大限に引き出した騎乗が光った。豪快な差し切りを決めて、シンデレラグレイ賞3代目王者の栄冠をゲットした。
■飛山濃水杯は名古屋のセイルオンセイラー逃げ切りV
最終12Rは岐阜新聞社・岐阜放送賞「第6回飛山濃水杯」(1400メートル、SPⅡ)でオグリキャップ記念トライアル。今回から西日本地区交流となり、12頭立てで佐賀、兵庫から2頭ずつ、金沢からも全国レベルの強豪が遠征してきた。
勝ったのは6番人気の伏兵。名古屋の友森翔太郎騎手騎乗のセイルオンセイラー(セン馬5歳、塚田隆男厩舎)が鮮やかに逃げ切った。陣営は「1~2コーナーでいつも物見をするので、シャドーロールを着けて遊ぶ面を見せずに集中して走れば」と先行力を生かして忙しい距離にも対応。笠松ではウインター争覇に続いて重賞2勝目となった。
■コンビーノは笠松で5戦連続2着
2着も名古屋のコンビーノ(牝5歳、竹下直人厩舎)。陣営は「重賞では銀メダルが続いているが、何とかタイトルを」と意欲を見せたが、笠松では5戦連続(重賞は4戦連続)の2着となり、依然として重賞勝ちがない「シルバーコレクター」。3着は兵庫の9歳馬バーニングペスカ(鴨宮祥行騎手)。1番人気の金沢・オヌスシナニモノ(吉田晃浩騎手)、2番人気の佐賀・リーチ(石川倭騎手)は初コースに戸惑ったのか5着、7着と力を発揮できなかった。
■「多くのファンの入場、すごくやる気が出ます」
自厩舎の馬を勝利に導いた主戦は「いよっ、友森」と大きな声援でスタンドを埋め尽くしたファンに迎えられた。「最高です。状態も良く、僕がミスをしなければ勝てると。スタートや道中の掛かり、息の入りも良く、あとは粘るだけだと。テンの速さでスタートセンスのいい馬」と愛馬をたたえた。
表彰式後にはウマ娘トークショーも控えており大入り。友森騎手は「これだけ多くのファンの方が入場してくださると、僕らもすごくやる気が出ますし、ぜひまた来ていただいて競馬を楽しんでください」と観客席に向かって呼び掛け。色紙にサインするなどして交流を深めていた。
■入場者8200人超、オグリ里帰りイベント上回る
この日の入場者は午後3時半までの集計で8290人というすごい数字(入場無料)。ちょうど19年前の2005年4月29日、オグリキャップの里帰りイベントで1日約7500人(2日間で1万1220人)のファンが来場したが、それを上回った。当時はバブル経済崩壊後で、経営難が続いた笠松競馬を救ったのがオグリキャップだった。近年、馬券はインターネット販売が主流となっており、お盆や年末開催以外の普段の入場者は600人ほど。21世紀に入ってから、8000人超えは笠松競馬場の最高記録とみられる。
終盤のレースはシンデレラグレイ賞が4時25分、飛山濃水杯は5時の発走で、オグリキャップ役の高柳知葉さんとシュヴァルグラン役の夏吉ゆうこさんのトークショーが最終レース後に開かれた。このため、両レースやトークショー目当てに、3時半の集計後に入場したファンも目立った。特別観覧席や、普段はガラガラのユーホールも1R前に満席となった。
■「ウマ娘コラボ楽しかった」「お馬さんの距離が近く、呼吸が聞こえる」
馬券販売も好調で、1日の売得金は7億6200万円。シンデレラグレイ賞だけで6600万円、飛山濃水杯は西日本地区交流で、広域的に売れて1億5900万円。「ウマ娘効果」は抜群で若者や家族連れのファンも多く入場。レース、イベントを盛り上げ、笠松競馬の魅力を全国にアピールし、大きな成果を収めた。
ネット上には「ウマ娘コラボ楽しかった。来年も笠松競馬場に行きたいな」「お馬さんの距離が近いので返し馬やレース中、彼らの呼吸が聞こえる」などの声が寄せられている。【次回に続く=(下)推しウマ娘降臨】
※「オグリの里2新風編」も好評発売中
「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。
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