ゴール前の激戦。左から勝ったタイガーインディ、3着オメガレインボー、2着ヘルシャフト 

 「多分かわしたかな」とニヤリ。豪脚でイン差しグサリ。ゴール直前、3頭横一線になる大激戦でしびれるレースとなった。

 第33回オグリキャップ記念(SP1、1400メートル)が5月23日、笠松競馬場で行われ、広瀬航騎手(40)騎乗の2番人気タイガーインディ(兵庫、牡7歳)が鮮やかに差し切りV。タイムは1分24秒0で、ラブバレットのコースレコード(1分23秒6)に迫る高速決着となった。

オグリキャップ記念を制覇したタイガーインディと広瀬航騎手

 ■1400メートル戦に距離短縮、ダートグレード復帰へ

 オグリキャップ記念は、日本の競馬界最大のヒーローの活躍をたたえる笠松の看板レース。これまでオグリコールが響いた中山競馬場での有馬記念と同じ2500メートルの長距離戦だったが、今年は大きく様変わり。1周も少ない1400メートル戦に距離短縮となり、開催時期も4月末から5月に移行。1着賞金は2000万円から2500万円に増額された。全国レベルの強豪が集まるようになり、賞金面でも条件をクリア。近い将来、オグリキャップ記念のダートグレード競走復帰が現実味を帯びてきた。

 1周の距離短縮はレース展開に大きな影響を及ぼした。これまでは2周目の向正面までスローな流れで逃げ馬が引っ張り、3コーナーから一気にペースアップする展開も多かったが、様相一変。短距離戦となって先行激化し、ゴール前もよりエキサイティングに。北海道、高知など全国から1400メートル戦のスペシャリストが集結した。

スペシャルエックスが先行した1周目のゴール前

 ■前の2頭かわし、インから突き抜け

 レースはトライアル・飛山濃水杯勝ちの名古屋・セイルオンセイラー(友森翔太郎騎手)が逃げるとみられていたが、オグリキャップ記念過去5勝の岡部誠騎手が北海道のスペシャルエックスで先手を主張。2番手に浦和のオメガレインボー(笹川翼騎手)がつけた。
 
 黒船賞2、3着の高知・ヘルシャフト(吉原寬人騎手)とタイガーインディが4、5番手で追う展開 。4コーナーではオメガレインボーとヘルシャフトが並んで回り、最後の直線で激しいたたき合い。ラスト100メートルを切ってインから飛んできたのがタイガーインディ。前の2頭を出し抜く形で一気に突き抜け。大外2着のヘルシャフトにクビ差先着しゴール。3着はさらにアタマ差でオメガレインボーが入った。

 勝ったタイガーインディはJRAダートで4勝を挙げた元オープン馬。兵庫ウインターカップ、兵庫大賞典に続き重賞3勝目となった。

 笠松勢は一昨年3着のウインハピネスが回避するなど寂しい顔ぶれとなり、後藤佑耶厩舎のタイセイドリーマー(塚本征吾騎手)の6着が最高だった。            

優勝騎手インタビューで勝負服を忘れた広瀬騎手が優勝の喜びを語った  

 ■勝負服を忘れた広瀬騎手、貸服で勝利

 広瀬騎手は今月10日には地方競馬通算1000勝を達成した「乗れてるジョッキー」。スタンドには応援するファンが多く駆け付け、横断幕も3枚掲げられ、期待に応えた。勝利騎手インタビューではいきなり「勝負服を忘れちゃったんですけど、うれしいです」とファンをドッと笑わせた。貸服姿ではあったが、お構いなしの快勝劇。お立ち台で晴れやかなスマイルを見せてくれた。

タイガーインディを囲み、オグリキャップ記念制覇の歓喜に浸った関係者

 兵庫大賞典に続いて重賞連勝のタイガーインディ。レースを振り返って「追い出すと反応が良く、直線を向いたら伸びてくれたんで『前が止まってくれ』と思いながら乗った。上がってきて『勝ったよ』と聞いてめちゃうれしかったです」と歓喜に浸った。

 ■表彰式でアンカツさんからも花束

広瀬騎手に花束を贈呈するアンカツさん(左)

 今後については「全国交流を勝ったんでダートグレードとかも狙っていきたい。皆さんに感謝です。結果を出せてうれしい。また応援よろしくお願いします」とファンに呼び掛けた。

 表彰式では「笠松のレジェンド」アンカツさんからも花束が贈呈され「流れにも恵まれて最後は内に来たところが良かった。おめでとうございます」と会心のレースを祝福。広瀬騎手は受け取った多くの花束をファンにプレゼントした。
 

広瀬騎手騎乗のタイガーインディを迎え、優勝を喜ぶ保利良平調教師(左)

 ■保利調教師「ハラハラ、びっくり」

 前走から中2週。保利良平調教師は「マイナス10キロと減らしたが想定内。これだけの脚を使えるから、輸送競馬でも高知のレース(黒船賞3着)はフロックじゃなかった。ハラハラしながら見ていたが、内から抜け出して何とか勝ってくれた。この馬は女の子みたいな繊細なところもあるが、1分24秒というタイムにはびっくりした」。

 レース間隔については「兵庫大賞典で目いっぱいに仕上げて中2週でしたが、最終追い切りも良かったんで出走を決めた。けがで1年ぐらい休んでいたが、今は充実している。発汗や毛づやも良くなる夏場に向けて調子を上げていくタイプ。佐賀のサマーチャンピオンなど目標にダートグレードで使いたい」と笠松での走りに手応えをつかんでいた。 

オグリキャップ記念優勝馬タイガーインディ

 ■2着の吉原騎手「すごい切れ味だった」

 笠松・白銀争覇(2022年)で4着があり、高知移籍後は重賞2勝のヘルシャフト。ゴール手前で先頭に並んだが惜しくも2着の吉原騎手。4番手から「進んでいかず、放っておいたら終わってしまうパターンだったので前へ出していった。切れる馬ではなく、自分から動いて流れを引き寄せろうと。笹川騎手の馬には負けなかったが、勝ち馬はすごい切れ味だった」と最後はタイガーインディの豪脚に脱帽だった。

副賞に飛騨牛も贈呈されたオグリキャップ記念の表彰式

 オグリキャップ記念は2005年に経営難のため、ダートグレード競走から全国地方交流に格下げとなった。全国の地方競馬でダートグレードがないのは笠松だけで、関係者もファンも情けない思いを募らせてきた。「復帰」への道のりは厳しかったが、古馬短距離戦として生まれ変わった。古馬長距離の2500メートル戦は年末の東海ゴールドカップに移行した。

 この日のオグリキャップ記念のレースでは、昨年を5000万円近く上回る2億1700万円の馬券売り上げがあった。1日では6億600万円でやや増加、入場者数は1017人で減少した。

 ■アンカツさん「オグリはどっしり、余裕があった」

 来場したアンカツさんは、特設ステージでのトークショーやオグリキャップ記念の予想も披露。大勢のファンが詰め掛け、レーシングアナ・長谷川満さんの司会で爆笑トークとなった。

ファンを楽しませたアンカツさん(右)のトークショー&予想会

 オグリキャップには笠松時代のレースや引退式でも騎乗したアンカツさん。当時のオグリキャップの良かった点について「精神面が一番良く、走り方も余裕があった。デビューした頃から周りを見渡して全然驚かないし、興奮しないし、どっしりしていた。ゲートでは1回立ち止まって、ブルブルッとして(武者震い)から中に入った」と振り返っていた。

 かつてはアラブ馬のレースもあった笠松競馬。専門紙の拡大版で回顧。騎乗したヨシノキングは68キロもの酷量を背負って走っていたが、体形がふくよかになったアンカツさんは「(重くなって)今の俺ではもう乗れない」とポロリ。一方で「ダートは馬格があってたくましい筋肉質の馬がいい。アドマイヤドンは芝もこなした。今はパワーよりもスピードの時代。しなやかな馬の方が上で、日本の馬はすごく強くなった」と確かな見解も披露した。

 ■予想は◎→○で的中、日本ダービーはどうか

 後半はオグリキャップ記念の予想会。今回はアンカツさんが知っている馬もいてプロの予想家の面目躍如。「タイガーインディに◎、ヘルシャフトに○、セイルオンセーラーに▲」の3点に絞って馬単をズバリ的中させた。

 日本ダービーの予想も披露し、皐月賞馬ジャスティンミラノを本命視。無傷3連勝のシックスペンスの勝ちっぷりも評価。コスモキュランダの皐月賞2着では「モレイラは世界一うまいから」と持ち上げ、牝馬レガレイラへのルメール騎乗にも注目した。その場にいないと聞けないアンカツ節もさく裂し、来場したファンを楽しませていた。

 また当コラムをまとめた「オグリの里1聖地編」には「キャップとアンカツ最強コンビ(ダービー特集)」などアンカツさん絡みの記事も多く掲載しており、笠松のレジェンドに1冊贈らせてもらった。

親子ワンツーを決めた松本一心騎手(右)と父・剛志騎手。

 ■松本剛志騎手復帰、一心騎手先着で「親子ワンツー」

 5月開催からは、けがで休んでいた松本剛志騎手が復帰した。8日の初日は4着、3着で迎えた8R、5番人気のサクラトップグッドに騎乗。後方2番手から豪快な差し切り勝ちを飾った。154日ぶりの復活Vで、頼もしい男が戻ってきた。

 10日の1Rでは、長男の一心騎手とのワンツーを決めた。親子対決では昨年「父1着、一心2着」のワンツーを実現させたが、今回は「一心1着、父2着」で長男が先着した。ニホンピロジェシカに騎乗 した一心騎手が、2番手から差し切った。

 この日は最終12Rでも親子対決。今度は父・剛志騎手が岡部誠騎手騎乗の断トツ人気馬を破る強烈な一撃。復帰直後の2勝はいずれも名古屋の騎手を後方から差し切っており、笠松勢として存在感を示してくれた。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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