アイドルホース競演。内馬場パドックを周回するハルオーブ(手前)とアオラキ

 「アオラキとハルオーブ、よく頑張った」「笠松競馬を盛り上げてくれたね、ありがとう」

 東海公営のご当地アイドルホースとして人気を集めた名古屋のアオラキと笠松のハルオーブ。今春から真夏にかけて、調教から本番レースまで、けがなどなく無事完走。笠松競馬場で確かな蹄跡を刻んだ。

 応援する熱狂的ファンたちの大きな声援を背中に浴びながら健闘。炎天下、突き刺さるような厳しい西日にも耐え、成長する姿を見せてくれた。ファン動員に貢献し、ネット上でも注目を集めた人気馬2頭は、地元・笠松などでは惜しまれながら、新天地でJRA復帰を目指すことになった。

ロングスパートを決めてJRA、地方競馬を通じて初勝利を飾ったアオラキと大畑雅章騎手

 ■アオラキ、笠松でロングスパート決め2勝

 ともにJRA未勝利の4歳牡馬で、地方競馬に転入した。アオラキはゴールドシップ産駒の白毛馬で、名古屋の今津勝之厩舎に所属。7月19日の笠松戦7着を最後に、南関東・浦和競馬に移籍した。主戦場とした笠松では大畑雅章騎手の力強い手綱に応えてロングスパートを決め、待望の初勝利を飾るなど5戦2勝と活躍した。名古屋では3戦して5着が最高だった。

 移籍先の水野貴史厩舎に入厩後は野田トレセンで調教をこなし、早くも浦和の人気者になっている。

笠松のダートをこなし、初戦3着とまずまずの走りを見せたハルオーブ。笠松では6戦して掲示板5回と健闘した 

 ■ハルオーブは笠松で初戦3着、5着4回

 一方のハルオーブは、JRA時代に2着7回の「善戦マン」として人気急上昇。門別、園田を経て笠松・後藤佑耶厩舎に転入。芝コースに比べてダートは苦手で2桁着順(門別、園田)も多かったが、笠松の軽い馬場で初戦3着と好走。ゴール前には生産牧場(北海道)の藤沢亮輔オーナーも駆け付け、応援する女性グループらから「はるお、頑張れー」と大きな声援が飛んだ。久々の好走に歓声が湧き起こり、3着でも勝利を祝うかのような大盛り上がりとなった。

 その後も5着4回と掲示板をよく確保した。笠松で6戦したが、獲得賞金に応じたクラス編成で当初A級に格付けされ(園田ではC級)、相手関係から初勝利には届かなかった。岩手競馬では、笠松よりも下のクラスで出走できそうで「まず1勝」を目指すことになる。

笠松競馬を盛り上げてくれた白毛のアオラキ(後方)とハルオーブ(中央)。ラチ沿いで多くのファンがカメラやスマホを手に声援を送った

 ■2度競演、ラチ沿いに女性グループや若者らびっしり

 アオラキとハルオーブは笠松で2度直接対決。人気馬2頭の競演となり、外ラチ沿いには応援する女性グループや若者らがびっしり。「はるお民」などと呼ばれ、カメラやスマホを手にした熱狂的なファンたちが殺到。内馬場パドック周回から本馬場入り、返し馬へと駆け抜ける愛らしい姿に熱い視線を送り、撮影を楽しんでいた。

 2頭ともパドックで入れ込むことはなく、すごくお行儀良く、いつも落ち着いた様子で周回。本馬場入り後は、ラチ沿いをゆっくりと4コーナー方面へと向かい、返し馬でも雄姿を見せてくれていた。

主戦の大畑雅章騎手と、お得意のポーズを決めて返し馬に向かうアオラキ

 笠松競馬場のラチ沿いでのこんな光景は、ウマ娘シンデレラグレイ賞やお盆、年末開催ぐらいで、場内を大いに盛り上げてくれた。

 本番レースではともに苦手の砂をかぶりながらも、ひたむきにゴールを目指した。2頭の対戦成績は初戦がハルオーブ3着、アオラキ5着。2戦目がハルオーブ5着、アオラキ1着だった。1勝1敗で3戦目は実現しなかったが、7月19日には7Rと11Rで同日出走。ハルオーブが5着、アオラキは7着。ファンの声援がジョッキーはもちろん、ゴールを目指す競走馬たちにも聞こえていたことだろう。

渡辺竜也騎手と初コンビ。5着の枠場に入るハルオーブ

 ■渡辺騎手「このクラスでも展開一つで戦える」

 笠松で堅実な走りを見せていたハルオーブ。ここ3走、5着続きで迎えた8月2日のレース前には、共同馬主の村上卓史さんがネット上に「さあ、はるお みんなのために笠松ラストランを超好走でしめよう」と声援を寄せていた。1着馬とのタイム差は2秒ほどで、A級からB級に下がっていたが、初勝利には届かず、厳しい戦いを続けていた。

 笠松エースジョッキーの渡辺竜也騎手も7月に騎乗し5着。「ファンの多い馬で声援も多くて一生懸命乗り、頑張ってくれました。このクラスでも展開一つで戦える」と評価。一方、主戦の塚本征吾騎手は「今のクラスではこんなもので、C級なら勝てるかも」と本音をチラリ。

 ■岩手の厩舎に移り、もう少し下のクラスで初勝利を

 JRAからの転入馬や名古屋からの遠征馬など強豪が多いクラス。初Vへは足踏み状態だったことや連日の猛暑もあって、岩手の厩舎に移り、もう少し下のクラスで初勝利を目指すことになった。

 8月11日午前には移籍先の水沢・伊藤和忍厩舎に「到着しました」とネット上で「はるお君」が元気な様子を報告。ファンからも「無事到着、長旅おつかれさま」といった投稿が相次いだ。

 笠松の地元ファンにとって、この夏、2頭のアイドルホースが相次いで新天地に旅立ったことは寂しいことではあるが、これも勝利を求められる競走馬の宿命。次のステージでの頑張りを願うばかりだ。

8月2日の笠松競馬7R、ファンの声援を背中に受けてゴールするハルオーブ。新天地となる岩手競馬に移籍した

 ■5着に終わったが、元気さをアピール

 「笠松卒業」となったハルオーブのレース。約4カ月間、愛馬を管理した後藤佑耶調教師は「つかみどころのない馬だが、元気はいい」と笠松での6戦目へと送り出した。3走前に10着に終わった同じ1枠からのスタートで苦戦も予想された。 

 1400メートル戦。内は砂が深く、外の先行馬が有利な馬場状態。先陣争いが激しい最初の直線では、内に切れ込む外枠の馬にもかぶせられて、後方待機策の内めの馬は砂をかぶりやすい。ハルオーブは5番手から前を追ったが、最後の直線で伸び切れずに5着。掲示板は確保してくれるが「勝ち負け」には届かないレースが続いた。

 調教でいつもハルオーブに騎乗していた長江慶悟騎手は、移籍前も「脚元など大丈夫ですよ」と元気さをアピールして、岩手へと送り出してくれた。

東海公営ではラストとなった7月19日、炎天下のレース直後、暑熱対策でシャワーを浴びるアオラキ。笠松で2勝を挙げ、浦和へ移籍した

 ■JRAのステージで再び直接対決を

 浦和入りしたアオラキはあと1勝でJRAに復帰できる。ハルオーブも岩手で下級クラスに編成されれば、笠松での経験を生かして、勝利の道が開けるかも。笠松では1勝1敗で「3戦目」も見たかった。ともに3勝を挙げてJRAのステージへ再チャレンジし、いつか同じレースに出走できるかも。「アオハル」決着の一戦が実現すれば、「地方発JRA復帰」の新たなサクセスストーリーとして注目を浴びることだろう。

同じレースでの出走が2度あり、返し馬でもファンを楽しませたハルオーブとアオラキ(手前

 アオラキとハルオーブは、CCN(ケーブルテレビ)と岐阜新聞のコラボ番組「地元!じもっと」の笠松競馬特集(8月末まで放送)にも登場した。撮影日に合わせてくれたかのように出走し、ともに雄姿を見せてくれてうれしかった。

 アオラキは8月22日の浦和12R「納涼特別」(C1選抜馬)に登録があり、下級クラスでのスタートで3勝目が期待できる。ハルオーブも岩手競馬への登録が完了。体調を見ながら再起に備えていく。地元・水沢なら9月8日からの開催で出走となる。   

パリ五輪総合馬術の競技後、愛馬ヴィンシーと記念撮影する戸本一真選手(左)。馬術では92年ぶり、団体種目では史上初のメダル獲得となった

 ■パリ五輪、総合馬術団体で銅メダル

 ところで、パリ五輪は閉幕したが、日本勢が大活躍し、金メダル20個。総合馬術団体では銅メダルを獲得した。馬術では92年ぶりのメダル。メンバーの一人、岐阜県本巣市出身の戸本一真選手(41)=日本中央競馬会馬事公苑=は個人でも、東京大会の4位に続いて5位入賞を果たした。「近い将来、日本は個人でメダルを獲得できると思う。早くそれを見たいし、またメダルを取りたい」と意欲を示した。

 愛馬ヴィンシーとのコンビで、日本の団体銅メダルに貢献した戸本選手は、8月18日の札幌競馬場でのレース・札幌記念(GⅡ)で、今度は誘導馬に騎乗するという。日本の競馬ファンの前でも晴れの舞台としてその勇姿が披露される。

 ■パリでの映画のワンシーンのような思い出

 パリには学生時代、欧州一人旅で訪れたこともあったが、映画のワンシーンのような印象深いことに遭遇した。競馬から話は大きくそれるが、パリつながりでこの場を借りて紹介させていただく。

雨の中、セーヌ川を舞台にして華やかに行われたパリ五輪開会式

 花の都に到着後、飛行機内で一緒だった学生たちと、パリの街並みを満喫しようと、ミニバッグを持って地下鉄に乗車した時のことだ。ロングシートに腰掛け、みんな「どこへ行こうか」とウキウキ気分ではしゃいでいた。向かい側のロングシートでは、パリ市民とみられるご婦人たちのグループもにぎやかに会話を楽しんでいらっしゃった。

 目的地の駅で降りたのだが、さあ大変。座席に大切なミニバッグを置き忘れてしまったのだ。現金(1万5000円ほど)のほか、パリ市内観光や欧州の人気スポット・宿泊地のガイドブックなどを入れていたのだ。

 慌てて駅構内の「忘れ物預かり」の一室に駆け込んだ。フランス語は授業で選択していたが、会話はほとんどできず。それでも対話集を手に状況をなんとか伝え、忘れ物の届けを出した。

 ■「もう戻ってこない」と絶望的な気分から

 異国の地での初日からの大失態。現金はともかく、欧州ガイドブックがないと、今後1カ月余りのバックパッカーとしての一人旅が厳しい道のりとなってしまう。当時、パリの地下鉄車内はスリなど治安が悪いと聞いていた。現金入りの忘れ物は「持ち去られたかもしれないし、もう戻ってこない」と絶望的な気分になって諦めかけたそのとき、まさかのシーンが待ち受けていた。

 部屋に一人の女性が入ってきた。その手には、自分が車内の座席に忘れてしまったミニバッグを握りしめていたのだ。地下鉄でたまたま乗り合わせて、目の前の忘れ物に気付いた彼女は、次の駅で降りてくださったのか。情けない外国人旅行者に届けるために、わざわざ引き返してきてくれたのだ。

 驚きの光景で、彼女の姿は「パリの貴婦人」のように輝きを放っていて大感激となった。「メルシー」などと何度も感謝の思いを伝えたが、このときの喜びは鮮明に覚えている。パリでの出来事でインパクトも強かった。温かい人情に触れ、長い人生でも最高にうれしいワンシーンとなった。

 外国人への「おもてなしの心」はよく話題になる。日本人でも、車内での忘れ物に気付いて駅員に預ける人は多いだろうが、一つ前の駅まで戻って届けてくれるとは…。ここまでできる人はなかなかいないのでは。それ以来、フランスとパリが大好きになった。その3日後ぐらいに「車内で男性数人に取り囲まれて持ち金を奪われた」という日本人女性の話を聞いたが、自分は超ラッキーだった。

パリ市街地をパトロールする騎馬警官

 ■パリの市街地、馬が歩いている

 パリ五輪を取材した岐阜新聞の記者によると、フランスを訪れてから馬を目にすることが多かったという。パリ郊外のベルサイユ宮殿で行われた総合馬術の団体で、日本チームは歴史的な銅メダルを獲得したが、パリの市街地でも馬が歩いている。

 その正体は騎馬警官。街中を歩いていると、1日に1度はすれ違う。「3人馬」が一つの班を組んでパトロールをしており、石畳の街並みに反響する乾いたひづめの音が心地よいとか。騎乗することで警官の視界が開け、人混みの中を巡回するのに適しているという。

 りりしい姿は写真映えし、観光客にも人気だったそうだ。日本では、路上を馬だけが走っていれば「放馬した」とみられ、警察に通報される。パリの街並みでは人と馬が共存している一例であり、こんな街づくりは何とも優雅な印象でほほ笑ましい。

 ■女子マラソン、一山麻緒選手「沿道の声援に背中押された」

 パリ五輪では、メダル獲得者以上に印象が強かったのは女子マラソンの完走者。東京大会では無観客で8位入賞を果たした一山麻緒選手は51位でのフィニッシュとなったが、笑顔も見せてのゴールイン。6位入賞の鈴木優花選手からは大きく遅れてしまった。

 直後のインタビューでは涙をこらえながら「惨敗でしたが、うれしい気持ちで走った。沿道を埋めた各国の人から『ジャパン、ジャパン』と力強い声援に背中を押してもらいました」と感激。無観客では味わえなかった熱い声援が、ゴールを目指す選手の頑張りを後押しした。その表情からは夢の舞台で激励を受け、走り切った満足感が大きかったように感じられた。

笠松競馬場では、アイドルホースを応援するファンがラチ沿いに詰め掛けた

 ■着順にかかわらず「推し馬」たちに熱い声援

 このインタビューを聞いていて、なぜか思い浮かんだのが、笠松競馬を盛り上げてくれたアオラキとハルオーブへの熱い声援だった。ラチ沿いをびっしりと埋めた熱烈なファンたちは、着順にかかわらず「推し馬」たちに大きな声援を送っていた。笠松のダートコースを懸命に駆け抜けてくれたアイドルホース2頭。浦和、岩手でもファンの声援を背中に浴びて、けがなどなく、ひたむきにゴールを目指してほしい。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

※ファンの声を募集

 競馬コラム「オグリの里」に対する感想や意見をお寄せください。投稿内容はファンの声として紹介していきます。(筆者・ハヤヒデ)電子メール h-hayashi@gifu-np.co.jp までお願いします。