豪快に差し切り、ラブミーチャン記念を制覇した名古屋のエバーシンス(中央)と細川智史騎手(笠松競馬提供)

 アッと驚く芦毛の馬体―。ラスト100を切って一気に突き抜け、ゴールになだれ込んだ。8月31日に天国へと旅立ったラブミーチャンにささげる豪快な追い込みを披露し、追悼レースにもなった。

 地方全国交流の2歳牝馬重賞「第11回ラブミーチャン記念」(SPⅠ、1600メートル)が11月19日、秋晴れの笠松競馬場で行われ、名古屋のエバーシンス(角田輝也厩舎)が差し切りVを決めた。細川智史騎手の好騎乗に応え、デビュー10戦目で重賞初制覇。北の大地から押し寄せた道営勢4頭のうちプチプラージュ(小国博行厩舎)が2着、コパノエミリア(田中淳司厩舎)が3着に食い込んだ。

パドックから返し馬に向かうエバーシンス     

ゴールインするエバーシンス。2着プチプラージュ、3着はコパノエミリア

 ホッコータルマエ産駒のエバーシンスは、専門紙などの予想の印(…、×)以上に支持を集めて4番人気。ノーマークにしていたが、笠松競馬ファンの見る目は鋭い。

 ■プチプラージュを一気に抜き去る

 前走、名古屋で初勝利を挙げて連闘策のエバーシンス。ゲートでは発走直前、オグリキャップの武者震いのように首を上下に揺らしながら気合十分。やや出遅れて後ろから2番手を追走した。

 渡辺竜也騎手騎乗のプチプラージュが、逃げたゴーゴーバースデイを3~4コーナーでかわし先頭を奪い、押し切る構え。「これは勝負あったか」と思われたが、そこへ大外から飛んできたのがエバーシンス。並ぶ間もなく一気に抜き去り、1馬身半差でゴールイン。他馬より1秒7以上速い上がり3F37秒5の切れ味を発揮。馬の力を信じて直線勝負に懸けた細川騎手の手腕が光った。

ラブミーチャン記念Ⅴの愛馬をたたえる細川騎手(NAR提供)

 ゴール後、装鞍所に戻る人馬に厩務員2人が駆け寄ると、細川騎手はエバーシンスの首筋に両手を回して抱きかかえるようにして「よく走ってくれた、ありがとう」という感謝の思いを伝えた。

 ■細川騎手「直線を向いて勝ったなと」

 4コーナーで6番手まで押し上げた細川騎手。2度目の騎乗だったが「非常に乗りやすくて思った通りに動いてくれる馬。後ろからでも自信を持って乗った」。中7日でも抜群の手応えで「内でずっと我慢して、直線を向いた時は『勝ったな』と感じた」。全国交流重賞Vの喜びに浸りながら「皆さんに応援される格好いいジョッキーになります」とファンの声援にも応えていた。

枠場に入り、厩舎スタッフの祝福を受ける細川騎手

馬具を手に装鞍所エリアへ戻ってきた細川騎手

 エバーシンスは5月31日デビューの名古屋生え抜きで、9月以降6戦目という非常にタフな馬。1キロ増で馬体減りはなく、展開も向いて「疲れもなく出来は良好で、ここを目標にうまく調整し、プラス体重で出られた。(展開など含め)いろいろと良い面が重なり、勝つことができた」と角田調教師。自厩舎の細川騎手でうれしい全国交流重賞Vを果たした。

 ■渡辺騎手「いい競馬したが、向こうがはまった」

 長距離遠征のプチプラージュは、前走の金沢シンデレラカップを5馬身差圧勝。ラブミーチャン記念でも2番手から押し上げ、勝利にぐっと近づいたが、ゴール直前でエバーシンスの切れ味に屈した。

2着に敗れたプチプラージュと渡辺竜也騎手。再出発で飛躍を期す

 惜しくも2着に敗れた渡辺騎手は「(展開が)はまったですよね、向こうが」と悔しそう。プチプラージュについては「馬場状態からも、いい競馬をしたかなあと。馬っぷりは前走の方が良かったですが」と。厳しい流れでもなく、さっと先頭に立っただけに、出し抜けを食らった感じ。7年前の東海ダービーで、10連勝中だった角田厩舎のサムライドライブが、勝利目前で笠松のビップレイジング(藤原幹生騎手)に差されたレースによく似た衝撃の結末となった。

 プチプラージュは持てる力は出し切った。冬季休業となった北海道には帰らず、笹野厩舎にこのまま入厩へ。グランダム・ジャパン2歳シーズンの3位につけており、今後の選択肢としては大みそかの東京2歳優駿牝馬(大井)で頂点を目指す可能性もある。

1周目、先頭はゴーゴーバースデイと髙木健騎手

 ■7枠にコパさん所有頭馬2頭、コパノエミリア3着

 7枠にはラブミーチャンの馬主・小林祥晃(Dr.コパ)さん所有馬でコパノリッキー産駒の2頭。栗毛馬ラブミールイス(川崎)とコパノエミリアが入り、同じ勝負服でファンの注目を浴びた。1番人気コパノエミリアで3着の岡部誠騎手は「パサパサに乾いた軽い馬場で器用さがなかった。力はあり、広い馬場なら」と。山崎誠司騎手で3番人気のラブミールイスはラストの伸びを欠いて7着に終わった。
 
 笠松勢3頭では、弾力あるフォームで見せ場をつくったゴーゴーバースデイ。果敢に先手を奪って自ら還暦祝いにもなる重賞Vを狙った髙木健騎手。最後失速し8着に終わり「具合は良かったが、1600メートルはやや長い。今開催はハナか2番手が残っているから前めの競馬をした。笠松や東海限定ならいいが、全国重賞では厳しい」と今後の成長に期待していた。                   

ラブミーチャン記念Vのエバーシンスと喜びの関係者(笠松競馬提供)

 ■ゴール板近くで雄姿、女性厩務員さんもうれしそう

 笠松でオグリキャップと同じ芦毛馬が、オグリの現役時代のようなすさまじい脚で勝った。4月のウマ娘シンデレラグレイ賞は芦毛・白毛馬限定レースで、若者らの熱気がすごいし、笠松競馬場ではやはり芦毛馬がよく似合う。

 西日を浴びて表彰セレモニーへ向かい、ゴール板近くで口取り撮影。手綱を持った女性厩務員さんも愛馬の「痛烈な一撃」がうれしそうで、詰め掛けたファンへも、ぐるぐると回りながらエバーシンスの雄姿を披露した。細川騎手は、うまく仕上げてくれた厩務員さんに感謝し、厩舎スタッフ一丸での優勝の味をかみしめた。

エバーシンスの優勝を祝い、表彰式に参加した関係者(笠松競馬提供)

 この日、特設ステージでのトークショーに出演したJRAの戸崎圭太騎手と高田潤騎手もプレゼンターとして表彰式に参加。細川騎手らに花束を手渡した。ファンたちは温かい拍手と「おめでとう」の声でラブミーチャン記念Vを祝福した。

 プリンセス特別からラブミーチャンの功績をたたえる記念レースとなって11回目。第1回優勝馬のジュエルクイーンが重賞を10勝するなど若駒の出世レース。一昨年Vのボヌールバローズは東京2歳優駿牝馬で2着。今回、細川騎手&エバーシンスのコンビは自信をつけたし、笠松所属馬となるプチプラージュと共に全国レベルの活躍を期待したい。

京都競馬場でメイプルタピットに騎乗し、JRA初勝利を飾った渡辺竜也騎手

 ■渡辺竜也騎手、京都でJRA初勝利

 「抜けた、笠松の渡辺竜也騎手これがうれしいJRA初勝利」とレース実況。こちらも芦毛馬での歓喜。土曜日の京都競馬場はこの日一番の盛り上がりとなった。

 渡辺騎手はJRA騎乗8戦目での初勝利。11月16日の京都10R近江特別(2勝クラス・ダート1900メートル)で、8番人気メイプルタピット(牡3歳、美浦・南田美知雄厩舎)に騎乗。中団やや後ろにつけて、4コーナーでは先団に取り付くと大外を猛スパート。最後は川田将雅騎手のカズタンジャーに2馬身差をつけて堂々のゴール。笠松での交流戦で一緒に騎乗することも多い田口貫太騎手が4着に踏ん張った。

 ■ゴール後、田口騎手とタッチを交わし歓喜

 1着ゴール後、渡辺騎手はメイプルタピットの頭や首筋をなぜながら感謝。にこやかに後ろを振り向きながら「おめでとうございます」と祝福する田口騎手とタッチを交わしてJRA初Vの喜びに浸った。後続のジョッキーたちや厩舎スタッフからも次々と祝福を受けてウイナーズサークルへ。

 初勝利がいきなり特別レースとは、さすがは「持っている」渡辺騎手。これまでヤングジョッキーズシリーズの中山・芝で2着、3着があった。この日は笠松・秋風ジュニア(JRA認定レース)を勝ったメイプルギン(牡2歳、伊藤強一厩舎)の出走で、6年ぶりに中央参戦。メイプルギンは9番人気8着に終わったが、同じオーナーのメイプルタピットが渡辺騎手の手綱に応えて幸運を運んでくれた。

JRA初勝利の祝福を受ける渡辺騎手(右)とプレゼンターを務め、プラカードも持つ田口貫太騎手

 ■「池添騎手に朝ごはんをおごっていただいたおかげ」

 JRA初勝利を祝うジョッキーやファンたちに囲まれた渡辺騎手。笠松つながりでプレゼンターを務めた田口騎手からターフィー人形が贈られた。笠松では渡辺騎手のことを「絶対王者」と尊敬のまなざしで接する田口騎手も、京都競馬場での表彰式では先輩格で、渡辺騎手の方が初々しく見えた。

 インタビューでは「まずは初勝利を挙げることができてうれしいです。厩務員さんには『出たなりで』と言われて、その通りにレースをすることができた。馬の手応えもすごく良かったので、もしかしたら勝てるかなと」とまずは優等生発言。ここでいつもの渡辺騎手らしく「全てはきょう、池添騎手に朝ごはんをおごっていただいたおかげだなと思います」とジョークを交えると、プラカードを持った田口騎手や池添騎手らも爆笑。その場の空気を和ませた。

 ■「笠松競馬場にもぜひ遊びに来てください」

 笠松では今年200勝以上挙げていることも紹介されたが「京都競馬場はすごく大きく多頭数で緊張しながら乗っていましたが、勝つことができて良かった。この経験は笠松競馬でも生きてくるし、もっといろんな場所に行って、皆さん(セレモニーに駆け付けた騎手)みたいに活躍できるように頑張りたい」と全国区での飛躍を誓っていた。

 さらに「普段は小さい競馬場で乗っているんですけれど、きょう京都競馬場に来ていただいた皆さんにも、笠松競馬場に足を運んでいただけると、活躍できて良かったなとまた思えるので、ぜひ遊びに来てください」と。他場での優勝インタビューでは、いつも「笠松競馬」をアピールする渡辺騎手。地元愛にあふれる言葉はファンの胸にも響いている。

 ■1日7勝で200勝ラインをあっさり突破

 渡辺騎手はラブミーチャン記念シリーズ初日には1日7勝の固め打ちで200勝ラインをあっさりと突破した。メイン11R・神楽月特別をセンダンキズナ(牝3歳、笹野博司厩舎)で大台達成。笠松での歴代年間最多勝も更新中で「209」まで伸ばした。

 名古屋、金沢などを含め全国では222勝でリーディング6位。勝率は全国でただ一人30%超えの36.2%で、連対率も驚異の55.5%。もはや笠松競馬だけの枠に収まらない名手として、全国区での活躍が期待でき、ラブミーチャンのように笠松所属馬でダートグレードを制覇できれば最高だ。

笹野博司調教師(右)は174勝目を挙げ、笠松競馬年間最多勝を更新した(笠松競馬提供)

 ■笹野調教師は笠松年間最多勝更新「175勝」&通算1500勝

 渡辺騎手の師匠である笹野博司調教師は11月19日、笠松10Rで自らの笠松競馬年間最多勝記録を更新する「174勝」を渡辺騎手騎乗のアルナイル(牡3歳)で達成した。最終レースも制して175勝目。全国リーディングでも2位と躍進を続けている。ネクストスター笠松は昨年のワラシベチョウジャに続いてブリスタイムで2年連続制覇。年間200勝も狙える位置につけている。

 15日の笠松9Rではサトノリアン(渡辺騎手)で地方通算1500勝も達成しており、リーディング師弟コンビの勢いはノンストップ。来年以降、他の若手、ベテラン騎手や調教師たちの奮起も期待されているが、2人の連続リーディングは揺るぎそうにない。

 ■金沢重賞、期待のバンダムアゲインは落馬

 金沢牝馬重賞「徽軫(ことじ)賞」には笠松勢3頭が挑戦した。名古屋のレイジーウォリアー(丸野勝虎騎手)が逃げ切りⅤ。笠松のベストフラワーが4着、モデル厩舎にいたサンマルブライトは8着。
 
 デビューから7連勝中で1番人気に支持されたバンダムアゲインには向山牧騎手が騎乗。ちょっと出遅れ、3コーナーからポジションを上げようとしたが、不運のアクシデント発生。追い出しでの勢いの違いもあって前の馬と接触し、バランスを崩して落馬した。

 人馬のけがの具合が心配されたが、向山騎手は翌日の笠松で「まだ痛いけど」と言いながらも頑張って騎乗した。バンダムアゲインはオープンクラスの実力のある馬だが、当分は馬体の回復に努めるもよう。向山騎手は「1400メートルは忙しいので駄目かな」とも。笠松では強い勝ち方をして「現役最強」の呼び声もあっただけに、距離を延ばして巻き返したい。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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