エメラルドグリーンの澄んだ流れと峡谷に芽吹く新緑。岐阜県中津川市付知町の付知峡にある川魚料理店「岩魚(いわな)の里 峡(はざま)」は、御嶽山を取り巻く深山から流れ出る付知川が、眼前に広がる。つり橋を渡って訪れる絶景の店として知られる。

 「今年は雪が多かった。毎日つり橋を雪かきしたな」と店主の伊藤眞一郎さん(64)。税務署員だった父昭二さんの都合で25歳まで名古屋市内にいたが、40年前に家業に入り、川べりの地に。当時は民宿を営んでいた。「夜になれば真っ暗闇。今でいうコンビニもない。最初は『冗談じゃない』と思ったよ」と笑う。

 夏はホタルが舞い、クーラーいらずの涼しさ。秋は紅葉が楽しめる。2019年に東海地方の情報誌の「涼絶景ランキング」で1位になった付知峡を象徴する景観は、抜群のSNS映えで県外から観光客を引き寄せる。

 豊かな自然は単なる景色だけではない。「付知、加子母、川上の三カ村は、尾張藩のお宝山でした」と町史の続編を手がけた伊藤廣輔さん(88)。木曽と並ぶ森林資源を誇り、江戸城西の丸再建や伊勢神宮の遷宮のために巨木が切り出され、川を流して木曽川から各地に運ばれた。

 戦後、権四薙(ごんしなぎ)にえん堤が造られた1956年ごろから付知川上流部で観光開発が始まる。飲食店やキャンプ場ができ、恵那峡にならって、いつしか「付知峡」と呼ばれるようになる。

 眞一郎さんの祖父英良さんは61年、森林鉄道東股線の橋のほぼ直下に当たる現在の場所でマス池作りに着手。春は山菜、秋はキノコ、そして焼いたニジマスで観光客をもてなした。

 3代目の眞一郎さんになって、渓流魚のイワナの養殖に乗り出す。県水産試験場(現在の下呂市)で種魚を分けてもらい、難関の餌付けに成功。「味にコクがある」と店の柱にした。

 付知や木曽谷では、イワナの大物のことを「ソウタケ坊主」と呼んだと伝わる。僧侶に化けて民家でもてなしを受けたとみられる4尺(1.2メートル)のイワナの腹から麦がゆが出てきたという言い伝えが元。寿命が長く、10年で体長50~60センチにも育つため、渓流のヌシとして伝説を残したとみられる。恵那漁業協同組合によると、道路整備で車が山奥まで入るようになって在来種で天然のヤマトイワナは減ったが、一部ではまだ生息しているという。

 「この地を選んでくれた祖父に今は感謝している」と付知町観光協会長も務める眞一郎さん。「このままの形で残すのが僕らの務め」と思いを新たにしている。

◆甘い身、お造りや塩焼きに

 アマゴと並ぶ渓流魚の代表格イワナは、渓流釣りの解禁で味わう機会が増える季節。どんな食べ方があるのか聞いてみた。

 「イワナは身が甘いんですよ」と魅力を語るのは、恵那漁協の原尊副組合長(72)。居場所はアマゴと重なるが、より深い淵や底にいる。5月の連休明けから7月中旬にかけてが脂が乗っておいしい時季で、骨酒もお薦めだという。

 中津川市付知町の「岩魚の里 峡」では、3~12月の営業期間中、2年かけて育てた成魚を提供。淡泊さの中に野性味がある塩焼き(600円)、お造り(千円)、甘露煮(600円)などを提供する。卵のしょうゆ漬け(500円)は、サケ科だけにイクラに近い食感が味わえる。