食堂で公開された学生が制作した壁新聞=岐阜市柳戸、岐阜大
グループで話し合いながら取材した内容を壁新聞にまとめる学生たち=同

 当たり前のことだが、人それぞれが歩む人生の道筋(ライフコース)は異なる。年代はもとより、国や地域、宗教、そして文化圏によっても歩まれるライフコースにはさまざまなものがある。日本を含む世界各国でダイバーシティ(多様性)やインクルーシブ(分け隔てない)といった標語のもと、従来の労働市場の在り方が強く見直されている。同時に、仕事とプライベートな生活のバランスを重視するワークライフバランスの視点から「働く」を見詰め直す人も多いと聞く。とりわけ近い将来、社会に出る学生は、こうした社会の動きに敏感であるものの、卒業後のライフコースを描くことに焦りを感じることが多い。

 私が岐阜大学全学共通教育で担当する授業の一つ、「ライフコース(人生設計と生活保障)」は、世界の若者の間で今どのようなライフコースが育まれており、またどう実践しようとしているのかを学ぶことから始まる。学生にはキャンパスの外の社会、世界に目を向けることで、他国の経験に学びつつ、自分たちが暮らす日本や地域社会で模索されるライフコースの在り方、ひいては学生が自身のライフコースを描く上でのヒントを得ることを目的としている。何より、グループでインタビュー先を決め、実際に聞き取り調査し、その成果を壁新聞としてまとめることが大きなポイントとなっている。

 壁新聞でその成果をまとめるというのは、同授業で昨年度も実施した。2020年以降、日本はもとより世界中が新型コロナウイルスに振り回され続けている。2年が経過した今、何がどのように変わったのか。日本も数回にわたる緊急事態宣言を経験する中で、経済活動は疲弊し、暮らしの苦境を伝えるニュースがメディアを通じて連日報じられている。長引く自粛生活の中で多くの人がこの間に自身のライフコースに向き合わざるを得なかったように思うが、実際どうなのか。こうした問いから学生の聞き取り調査はスタートした。

 学生の関心は多彩だ。3グループ(1グループは5、6人)が選んだ対象は、農業、人口減少、そして教育(障害児教育)であった。対象が決まり次第、インタビューの申し入れを各グループで行い、リモートまたは対面で行った。多くの学生がリモート操作に慣れていたこともあり、先方とのやり取りは非常にスムーズに進んだ。聞き取り調査を通じて、どの学生も普段の暮らしで通り過ぎてしまうリアルな社会問題とその問題を抱える人々の暮らしに触れた。問題の大きさと奥行きをどのように捉え、壁新聞にまとめるか、そして他の学生に伝えるかが求められた。実際に壁新聞を制作した学生は次のように述べている。

 「私たちのグループは岐阜県立岐阜聾学校で、学校生活と地域との関わりについて取材しました。先生からお話を聞く中でさまざまな学びがありましたが、その中でも『子どもたちには、学校生活を通して自分について理解し、社会に出た際には自分の言葉で発信できるようになってほしい』という言葉が強く印象に残っています。社会が変わるのを待つのではなく、自ら発信することで社会を変えていこう。私たちも、この壁新聞を通して、見る人の何かを変え、社会を変えていくことにつながれば良いな、と思いながら制作しました」

 壁新聞の制作を通じた「学び」を学内で共有したが、それを読んだ学生との対話、つまり情報の発信者と受信者との対話の場を設けることも、学びのさらなる深化を促すのだろう。今後の課題としたい。