シンデレラグレイ賞を制覇し、笑顔の深沢杏花騎手

 盛り上がった笠松競馬のウマ娘シンデレラグレイ賞。深沢杏花騎手(20)がヤマニンカホン(牝4歳、森山英雄厩舎)に騎乗し、華麗にスイスイと逃げ切りVを飾った。スタート前には、みんなに「出遅れるなよ」と言われ、1番人気でかなりのプレッシャーもあったようだ。レース後には、ファンの前での勝利騎手インタビューがなかったので、「シンデレラグレイ賞V」に輝いた深沢騎手の喜びの声を改めて振り返った。

 白毛・芦毛馬限定レースの王座を射止め、戻ってきた装鞍所で祝福を受けると、笑顔がはじけた。「出遅れたのに馬が頑張ってくれました」と何度も愛馬に感謝。「自分自身に力が入り過ぎちゃって、遅れちゃいました。後ろからなんか来てるなあと思って怖かったです」。口取り写真の撮影では「めっちゃ盛り上がりましたね」「今度は白毛馬も連れてきて」といった声が飛び交った。

 「いいレースを見せてくれてありがとう」。勝利の瞬間、ライブ観戦したウマ娘ファンらの温かい拍手が長く続き、声援も「ゴールした時に聞こえました」とヒロインを感激させた。どの辺りで勝ったと思ったのか。「いや全然。ゴールするまでドキドキしていました。6R(オリジナルクリアうちわ配布記念)でも勝っていて、攻め馬で乗ってくれた慶悟(長江騎手)のおかげです」と教養センター時代の後輩に感謝すると、長江騎手も「勝ってくれて良かったです。『大女優』ですから」と喜びを分かち合った。

■「出遅れるなよ」と言われたのにジャンプ発走

 優勝馬は出遅れ癖がある馬ではなかったが「スタートであおって、見事にジャンプ発走しちゃって。でも速かったんですぐに先頭に立つことができました。4コーナーを向いた時に、ビジョンを見たら、何かいるのが分かった。直線勝負になったら、(2番人気の)藤原さんの馬の方が絶対に脚が切れるからヤバイと思って、最後まで気が抜けなかったです」と。前走では1.9秒も引き離されて完敗した相手の追撃にハラハラしていたようだ。

優勝馬のヤマニンカホンに騎乗した深沢騎手

 このレース、レジーナクィーンで5着に入った大原浩司騎手(42)は、勝ったヤマニンカホンの主戦(4勝)でもあり、「出遅れるなよと散々みんなに言われて、スタートしたら杏花がいなかったから『あいつ、やりやがったなあ』」と話すと、みんな大笑い。

 さらに深沢騎手は「きのうのオグリキャップ記念の方が、なんで人が少ないんだろうと思いました。なんでこのレースの方が、ファンからしたらすごく盛り上がるんだろうなあと。強い馬に乗せていただいているし、馬場も向いていて、やっぱり緊張してましたね。すごく勝ちたい、勝ちたいと思っちゃって。みんなに『杏花、絶対に出遅れるなよ』とフラグを立てられて、見事に回収しちゃいましたね。ハハハー」と関係者の見込み通りの不安が的中してしまい苦笑い。

 ヤマニンカホンにはそれまで2回騎乗。いずれも逃げて1勝、2着1回と好相性だった。「この馬、行ってナンボの馬なんで、出遅れたのにハナに行きました。道中はずっとちゃんとハミを掛けて、ハイペースになっちゃったんですけど、遊ばないで『最後まで頑張ってくれ』という思いで行きました」

 ゴールまで独走状態で2着馬に4馬身差。「これぐらい強い馬だと自信はあった。雨が降って、ちょっと砂が流れて馬場が軽くなって先行有利でしたね。私なんか、ただ乗ってただけで、馬が頑張ってくれました。馬に感謝です」と、スマイル全開で本当にうれしそうだった。この1勝で今年14勝目を飾り、好調をキープ。飛躍の年になりそうだ。

シンデレラグレイ賞のパドック前で、返し馬に向かう各馬に熱い視線を送るウマ娘ファンら

■ウマ娘ファンの「近~い」という声、騎手にも届いた

 「拍手や声援は聞こえました」と若手エースの渡辺竜也騎手(22)。オグリキャップがデビューした笠松競馬場への聖地巡礼で訪れたウマ娘ファンの思いは、騎手たちにも届いていた。

 お客さんが多かったことへの騎手たちの反応は。
 
 いつもファンを大切にして「レースを楽しんでもらいたい」という笠松のジョッキーたち。渡辺騎手は「盛り上がってましたね。何よりです。『近~い』という声が聞こえましたよ。拍手はもちろん」と、スタンドやラチ沿いのお客さんの視線なども意識。「でも今開催はあんまり勝ってないんでね。お客さんが多いと緊張しちゃって」と笑わせてくれた。1開催で2桁勝利も多い渡辺騎手だが、4勝どまりで満足できない成績となった。次開催以降「自分としての期待馬はライジングドラゴンですね(芦毛馬でオグリキャップ記念7着)。距離が長かったんで、もっと短いところならもう少しやれていました」と次走で注目したい一頭だ。

 オグリキャップ記念シリーズで2連勝を含めて3勝を飾った長江慶悟騎手(22)は「後半の2日間はあまり乗ってませんでしたが、ファンの数が見ててこれはすごいなと思いましたよ。自分のレースやサポートに集中してて、周りを気にする余裕はなかったですが、あそこまで人がいたのは初めて見ました」と驚いた様子。藤原幹生騎手(41)は「反応があるんで面白かったですね。声は聞こえるから。スカスカよりは楽しいと思います」と騎乗にも良い影響を与えていた。                   

場内の売店前に掲示された「オグリの絵馬掛け」には「ありがとう笠松競馬場」などと書かれている

■笠松競馬にも再生への「追い風」

 「人生初の競馬場での競馬楽しかった」「お馬さん、想像以上にかわいい」とウマ娘ファン。盛り上がったシンデレラグレイ賞の余韻が覚めない中、オグリキャップ記念シリーズ最終日の2日にも大勢のファンが笠松競馬場に来場した。1年前には不祥事のどん底で逆風続き。光を求めてトンネルの出口を求めてさまよっていたが、ようやく再生への「追い風」が吹いてきたようだ。

 ゴールデンウイークの真っただ中で快晴。コラボレースがあった日に来られなかったり、リピーターとしてゆっくり場内を散策するウマ娘ファンらの姿もあった。オグリキャップとタマモクロスの「ウマ娘 プリティーダービーパネル」はこの日まで設置され、「インスタ映え」の人気スポットとなった。今回は規制があったが、普段はちょっと触れたり、プレートなどもじっくりと眺めたりして、中央の有馬記念を2度も勝った出世馬の「パワースポット」をより身近に体感できる。

年越しのカウントダウンイベントが行われたこともあるパワースポットのオグリキャップ像

■オグリキャップ像からパワーを

 かつてはオグリキャップ像前で、年越しのカウントダウンイベントが開かれたこともあった。みんながオグリ像に触れ、1年の幸せを願った。笠松競馬のシンボルとして、経営難や最近の不祥事でも、風雪に耐えて競馬場存続も支えてきた。「オグリキャップ像がなかったら、笠松競馬はとっくにつぶれていた」というのが現場の共通認識でもある。「競馬事業を速やかに廃止すべき」との第三者委員会の中間報告があった2004年のように、90%以上廃止に傾いていた苦しい時にも、厩舎関係者らは底力を発揮。場立ち予想屋の屋根に書かれていた「◎笠松競馬は永久に不滅です」の名文句通りに力強く立ち上がり、復興につなげてきた。

 シンデレラグレイ賞当日は、ウマ娘ファンらの徹夜組も多く、午前5時に50人ほどが正門前に集結。7時に約500人、8時には行列が第2駐車場を突き抜けて木曽川の堤防道路にまで達する混雑ぶり。開門を早めた8時20分の段階で1200人が大行列。コラボ企画の「オリジナルクリアうちわ」が先着1500人にプレゼントされ、争奪戦ともいえる「ウマ娘レース 舞台裏でもう一つの熱戦」が繰り広げられていた(岐阜新聞、ユーチューブで動画配信)。人気を集めたうちわは、ネット上で転売される騒ぎも起きたが、大半は純粋なウマ娘ファン。雨で冷え込む中、グルメや馬券購入でも辛抱強く並びながら、最終11Rの「シンデラグレイ賞」まで熱心に観戦していた。

木曽川堤防まで続いたウマ娘ファンらの行列 

■シンデレラグレイ賞の記念馬券を求めて混雑、表彰式はなし

 ゴールデンウイーク入りで、上限の5000人は来るとみていたが、想定以上に早朝からお客さんが並んで、思わぬ事態も発生。開門を2時間10分も早めたが、馬券の発売は通常通りで、レース発走の20分前からだった。このため、1~2Rの馬券を買おうとした一般ファンと、最終11R「ウマ娘シンデレラグレイ賞」の記念馬券を買おうしたウマ娘ファンが一斉に券売機前に並び、購入できない人が続出。競馬組合では「発売開始を早めても良かった」と、混雑時への教訓にしたい意向。券売機の台数は増やせないなら、かつてマークカードに不慣れな人のために開設していた臨時の窓口販売などを増やすなどして、マンパワーでも対応すべきである。また、一部の種類のマークカードが不足したり、発払機で当たり馬券の払い戻しがすぐにできない事態が起きるなど、今後改善すべき事も多かった。

 シンデレラグレイ賞の出走馬のゼッケンには、重賞並みに馬名やレース名も表示されていたが、優勝セレモニーなどはなかった。昨年1月にはシンデレラグレイ単行本発売記念の協賛レースが予定されていて中止になったが、今回は協賛がなく、表彰式も行えず残念だった。それぞれのお家事情もあるだろうが、ウマ娘ブームは大きなうねりとなって、底冷えがしていた笠松競馬場に熱気を呼び込んでくれた。若者ら新たなファン層を開拓でき、競馬組合では「多くの方に来場していただき、ネット上などでも好意的な反応が多く、ホッとしています。これからも地方競馬を盛り上げていければ」とコラボ企画の成功を喜んでいた。
          

飲食店前にもファンの長い行列ができ、「昭和レトロの味」を堪能した 

■競馬場グルメ売り切れ続出「ウマ娘人気すごく、甘かった」

 オグリキャップ記念が行われた4月28日から開催日の3日間、場内の飲食店やグッズ販売店では完売が続出した。

 1935年の笠松競馬開業当初から場内で営業を続けている飲食店の「丸金食堂」ではご当地グルメが人気で「串カツとどて煮がよく売れましたが、間に合わなくてお客さんに迷惑をかけてます」と大忙し。ウマ娘ファンが殺到した29日には「もっと食べる物がなくて申し訳なかったです。おでんも30分ぐらい煮ないかんからストップして、売り切れ続出でしたね。きょうは準備して売りまくりましたけど、キモ焼きが朝からないし、串カツなどもなくなりました」と大繁盛だった。

 「ここまでウマ娘の人気があるとは思わず、甘かったです。(ウマ娘のパネルが設置された)28日と2日にもこれほどお客さんが来るとは思わなかったので」と完売続きに、うれしい悲鳴となった。ちなみに売り上げは通常の何倍ぐらいか聞いてみると「10倍はいかんけど、8倍ぐらいかな。てんてこ舞いでした。普段の日にも来てもらい、ちゃんと提供できたらうれしいです」とリピーターとしての来場も呼び掛け。今度は晴れた日にスタンドでレースを観戦しながら「昭和レトロの味」を堪能してもらえるといい。
                  

場内にオープンした「小栗孝一商店」。オグリキャップグッズを販売し、にぎわった

■オグリキャップ初代オーナーの「小栗孝一商店」オープン

 場内ではオグリキャップ関連グッズの販売も行われて大盛況。オグリキャップ記念の開催日に初出店し、オープンしたのは「小栗孝一商店」。1番人気はオグリキャップサイダー(販売・酒の浪漫亭=海津市)で、2番人気はオグリTシャツで完売。オグリキャップの初代馬主だった小栗孝一さんの遺志を受け継ぐ店で、昭和の時代にあった「小栗孝一商店」を復活させて、長女の江島勝代さんや浪漫亭の舘徹社長らの協力でオープンさせた。絵馬や升なども販売され、「オグリの絵馬掛け」としても掲示。「ありがとう笠松競馬場。願いはシンデレラグレイのアニメ化」「楽しかったです。また来ようと思います」などと寄せられている。

 小栗孝一商店は今後も場内で随時開店し、次回は日本ダービー開催日の5月29日に出店させたい意向だ。笠松競馬開催日ではないが、場内の「J-PLACE」でJRAの馬券が購入できる。正門前では愛馬会の売店でぬいぐるみなどが販売され、好評だった。侮れないウマ娘ファンパワー。馬券は記念に買う程度でも、関連グッズに対する購買意欲はかなりのもの。これからもいろいろなグッズを取りそろえていけば、新たなヒット商品が生まれるかも…。

 10代のウマ娘ファンも多く来場し、馬券販売は驚くほどではなかったが、グルメやグッズで場内の売店は大いに潤った。ウマ娘とのコラボ企画は大成功。今後もお盆開催や笠松グランプリシリーズ、秋まつり、畜産フェアなどでもイベントを開いて、聖地巡礼で訪れる若者たちの期待に応えていきたい。ウマ娘の声優さん(オグリキャップ役は高柳知葉さん)のミニライブやトークショーなども実現すれば盛り上がるだろう。

■オグリキャップ引退式では、午後8時30分から徹夜組

 電話やネットでの販売がなく、馬券購入は競馬場に来るしかなかった時代の昭和50年には、笠松レコードの約3万4000人が来場した。1991年1月15日午後に行われたオグリキャップ里帰りセレモニー(引退式)でも徹夜組が並んだ。前日の午後8時30分、愛知県の大学生2人が競馬場正門に一番乗り。午前3時には38人に。競馬場側が気を利かせて、即席ラーメンと電気ストーブを運んだ。午前6時50分には150人ほどになり、ついに開門。第1レースが発走する11時には1万人を突破した。いつもと違って若い人が目立ち、この日は成人の日でもあり、晴れ着姿の新成人の姿も。正門、東門の2ヵ所に設けられたオグリグッズの販売コーナーには女性ファンらも殺到。ぬいぐるみ、トレーナー、時計などが人気で、1200万円分が午前11時までに売り切れた。公式入場者数は2万7765人だったが、満員御礼で入場できなかったファンが堤防などからも熱視線。3万人超が名馬との別れを惜しみ、アンカツさんを背に場内を2周した笠松でのラストランに「オグリコール」が響き渡った。
 
 2005年4月には、存廃に揺れていた笠松競馬の「救世主」としてオグリキャップの里帰りセレモニーも開かれた。この日の入場者は7751人。オグリキャップと同じ芦毛馬ばかりのレース「芦毛伝説オグリキャップ賞」も行われた。翌年も開催され、ともに牝馬が勝っている。今回の芦毛レースは、それ以来16年ぶりの開催となった。

「小栗孝一メモリアル」で地方競馬通算400勝達成した大原浩司騎手

■大原騎手、「小栗孝一メモリアル」で地方通算400勝達成

 「大原浩司だ、400勝ゴールイン」。オグリキャップ記念後の最終12Rで行われたのが「小栗孝一メモリアル」。2番人気のインシュラー(セン馬8歳、森山英雄厩舎)が好位から差し切りV。騎乗した大原浩司騎手は「地方競馬通算400勝」を達成し、節目となるメモリアルレースとなった。

 4コーナーでは逃げ馬、追い込み馬との3頭の競馬になり、デッドヒート。インシュラーは大外を回って、内の2頭を完封。今年もリーディングトップの岡部誠騎手(名古屋)、青柳正義騎手(金沢)を破っての価値ある1勝となった。  

 この日の1、9Rでは5番人気、4番人気の馬で好位差し切り。一気に3勝を挙げて区切りの勝利に到達。400勝目を意識していたかどうか聞くと「忘れてたんですよね。この開催であと三つだとは知ってたんですが、きょうまさかポンポンポンといけるとは思ってなかったんで」。場内実況で400勝達成がアナウンスされたが、「聞こえなかったです。厩務員さんに『400勝おめでとう』と言われて知りました」と、「あと1勝」の重圧も感じずに到達。「予定していたポジションが取れて、3番手から、しまいも遊ばずにしっかりと走ってくれました」と最後にグイッと一伸びし、接戦を制した。

 小栗孝一メモリアルと400勝のメモリアル。パドック前にはインシュラーを応援するファンの横断幕も掲示されていたが「本当ですか。全然分からなかったです」。ジョッキー仲間らには、「大原浩司、400勝」の実況のまねもされて冷やかされると、本人は「祝ってくださいよ」と和やかムード。

 笠松競馬の騎手会長としては「ちゃんと役目が果たせているかどうか分からないですが、周りのサポートのおかげで、何とかやれています。売り上げが好調なのもいいけど、やっぱり生で見てもらえるお客さんが多くいるといいですね。いつも気合を入れて乗っていますが、いいところを見せて次の1勝といきたいです」と意欲を見せていた。400勝達成セレモニーは鵜飼シリーズ初日の5月10日に予定されている。平日の開催日はガラガラ(600人ほど)なので、ゲームでウマ娘を育成するトレーナーさんにとっては、聖地巡礼の旅をのんびりと楽しむチャンスでもある。