笠松競馬場の正門前で再開され、にぎわった愛馬会の軽トラ市

 笠松競馬ファンの「オアシス」として人気を集めた愛馬会の競馬グッズ販売店。一連の不祥事の荒波を受けて、競馬場東門近くの店は閉まったままだが、5月から正門の外側で、たった1台での「軽トラ市」として再開した。開店するのは月に2日ほどだが、多くのファンでにぎわっている。

 愛馬会は、笠松競馬が経営難で廃止のピンチに陥った2004年、調教師の奥さんらでつくるボランティアグループとして発足。ファンへのあいさつ運動をはじめ、競馬場存続のために署名活動を行ったり、「笠松競馬を守る集い」を開いて力強く後押し。その後も門松の飾り付けなど競馬場を元気づける活動やグッズ店を開くなどして、笠松ファンとともに存続のための土台を縁の下から支え続けてきた。

■売上金は協賛レース「好きです 笠松競馬」で活用

 ところが2年前、笠松競馬の騎手や調教師による馬券不正購入が発覚し、レースは昨年1月から8カ月間も自粛された。笠松競馬再生に向けて、競馬組合は「公正競馬の確保」を徹底。調教師の家族でもある愛馬会のメンバーは、レース再開後も場内での活動が制限された。

 これに対して、愛馬会代表を務める後藤美千代さんは「競馬場をつぶすまではないが、厳しいことをされるだろうと思っていて、愛馬会は場内に入れなくなりました。でもそれでいいと思う」と競馬組合による笠松再生への対応を受け入れた。7年前に亡くなった夫の保さんは笠松の調教師として通算1741勝を挙げた名伯楽だった。息子の正義さん(調騎会会長)と佑耶さんは調教師として活躍しており、長年「名馬、名手の里」を支えてきた競馬ファミリーである。

お宝競馬グッズにあふれ、ファンのオアシスとなっていた愛馬会の売店内。昨年1月から休業が続いている

 今回、軽トラでの愛馬会売店再スタートとなったが、後藤さんは「これぐらいなら1人でできるし、ファンの方が応援してくれますから。みんなが同じ気持ちで協賛レースをやってくださるから」と前向きで、元気いっぱいだ。

 レースが再開されて9カ月。コロナ禍の影響もあって東門は閉鎖。全国の笠松ファンや競馬場関係者たちの交流拠点としても大きな役割を果たしてきた愛馬会売店も閉まったままで、店内は薄暗く、残されたグッズたちも寂しそうだ。このまま、この店は「冬眠」を続けることになるのか。これまで、グッズやオークションの売上金の一部は、歳末助け合い義援金など福祉目的の寄付金のほか、協賛レース「好きです 笠松競馬」の賞金として活用。笠松競馬を愛するファンたちの熱い思いが、ジョッキーたちの活躍をサポートしてきた。特に勝負服などお宝グッズのオークションは人気が高かっただけに、非常に残念だ。

■ウマ娘ファンら「愛馬会の店を見たい」

 オグリキャップがデビューした笠松競馬場。聖地巡礼に訪れるウマ娘ファンは増えており、関連グッズは注目の的である。場内ではオグリキャップ初代馬主の「小栗孝一商店」がオープンする日もあるが、ウマ娘ファンの若者らからは「愛馬会の店を見たい」という声も多い。長年通ってきて再開を待つオールドファンの要望にも応えて、軽トラ市での再開となった。

 6月5日、競馬場正門前では、愛馬会の競馬グッズを軽トラックの荷台に積み込んで店開き。後藤さんがたった一人で販売していた。朝市か縁日の出店のような雰囲気で、明るく楽しく、新たなにぎわいを創出。「お客さんがいろいろなアイデアをくれます。野菜を売ったらどうかとかね」と。馬ふん肥料の「ボロちゃん」(1袋100円)なども売られていて、本当に朝市みたいな雰囲気だ。 

各地の重賞レースなどに参戦した笠松所属馬のゼッケンも人気だ

■お目当ては「鉄の女」ナラのゼッケン

 訪れた顔なじみのお客さんは「ゼッケン持ってきた?」と、笠松の現役馬で全国交流重賞にも挑戦しているナラ(雌6歳)やハナウタマジリ(雌4歳)が着けていたお宝グッズがお目当てだった。馬名入りゼッケンとなると、重賞クラスのレースになるが、4月の「シンデレラグレイ賞」でもウマ娘ファン向けに馬名入りだった。特に新たな「鉄の女」として、笠松や全国のレースを転戦しているナラには深沢杏花騎手が騎乗することが多く、後藤さんは「ゼッケンも杏花ちゃんが乗っていると人気だね」と厩務員さんにお願いし、ファンの要望に応えて提供してもらうそうだ。

 グッズには「自分で値段を付けてください。お任せします」と、お客さんたちと楽しくやりとり。ゼッケンは1枚1000円程度。年配のファンもぬいぐるみなどを見て「懐かしい名前ばっかりや」と。後藤さんは「こうやって、軽トラ市をやっているのを皆さんに分かってもらうだけでいいです」とうれしそう。この日はゼッケン、ぬいぐるみ、ボロちゃんなどが人気を集めていた。場内の愛馬会売店のように多くは並べられないが、温かみのある楽しいグッズばかりだ。

笠松競馬の存続を支え続けてきた愛馬会代表の後藤美千代さん

■シンデレラグレイ賞でも販売、大盛況

 シンデレラグレイ賞でウマ娘ファンが殺到した日にも、正門前で愛馬会のグッズが販売されたが、長い行列ができて大盛況だった。雨降りで、オグリキャップのペナントタオルなどもよく売れたそうだ。場内の飲食店では食材が品切れ状態になった。売店組合も想定外で「食べる物がなくて、ファンが困っている」という非常事態に。そこで、後藤さんの娘さん夫妻が装鞍所エリアで営む笠松競馬場関係者用の食堂「うらら」に、食材の提供依頼があり、急きょ弁当を作って60食分を東門近くでウマ娘ファンらに販売したそうだ。

 一連の不祥事がなければ、場内で愛馬会売店が今も開かれていただろうが、レース自粛は長引いた。厳しい処分の発表とともに騎手は半減。「みんな乗れる子だったのに、貧乏と誘惑に負けたんやね。辞めちゃったんで大変ですよ」と事実を知った後藤さんは情けない思いでいっぱいになったという。
             

軽トラ市で並べられていた愛馬会の競馬グッズ。ぬいぐるみを買い求める女性ファンら

■馬券が外れた人にもプレゼント

 愛馬会の軽トラ市が開かれたこの日は中央競馬のGⅠデー。JRA初代理事長を務め、日本ダービーを創設した安田伊左衛門さん(岐阜県海津市出身)の生誕150周年記念競走として「安田記念」が開催された。レース後には、場内の清流ビジョンなどでの観戦を終えた多くのファンが愛馬会にも立ち寄った。

 来店した若者らは「すごい、かわいいな」と、ウマ娘キャラでもあるナリタブライアンやライスシャワーのぬいぐるみなどに注目。「GⅠで馬券が当たったから」とグッズを買い求めるファンも相次いだ。「負けたよー」と馬券が外れた人にもオグリキャップの写真などがプレゼントされ、ファンは「これで取り戻せました」と大喜び。「今度大当たりしたら、協力して」と後藤さん。「いま、スターホースがいないし、何かで笠松競馬をアピールしないとね」とファンサービスに努めていた。

昨年末には、正門横で愛馬会手作りの「蹄鉄しめ飾り」も販売された

 昨年末には、正門横で愛馬会手作りの「蹄鉄しめ飾り」も販売した。後藤さんが競馬組合の競馬場設計担当者に聞いた話によると、今後は場内の施設改修が順次進められ、正門のリニューアルも計画されているという。正門の外側には愛馬会の売店をつくる案もあり、5~7年後を予定しているそうだ。これを聞いた後藤さんは「じゃあもっと頑張るわ。目的があれば頑張れるし」と意欲。それまでは軽トラ市でのグッズ販売を続け、ファンの後押しを受けて協賛レースなどで盛り上げていく覚悟だ。

■軽トラ市は6月26日、7月17日、8月7日…に開催へ

 後藤さんは普段、名鉄笠松駅構内にある町の情報発信拠点「ふらっと笠松」のスタッフとして働き、蹄鉄グッズやオグリ銘菓なども販売。このため、駅での仕事が休みで、対応可能な日曜日(JRA開催日)に、競馬場正門前で競馬グッズを販売することにした。

 次回の軽トラ市は6月26日(宝塚記念開催日)で、7月17日、8月7、28日、9月18日、10月9、30日にも出店を予定。笠松競馬の開催日では、お盆開催、ラブミーチャン記念、年末開催、オグリキャップ記念に合わせて軽トラ市を開いていく。営業時間は正午からJRAの最終レース後まで(雨天中止)。
 
 正門前は、かつて愛馬会が競馬場存続のための署名活動を行っていた場所。後藤さんにとって軽トラ市は、同じような熱い思いで再生を願って、より魅力ある競馬場への道を切り開いていく取り組みでもある。馬とともに暮らしてきた笠松競馬のホースマンたちとファンの熱い思いは一つになって、レースを盛り上げていく。

 週刊ヤングジャンプで連載中の漫画「ウマ娘 シンデレラグレイ」は、JRAでのオグリキャップのレースが2年目に入ったばかり。イナリワン、スーパークリークとの3強対決やぬいぐるみブームで、オグリは国民的アイドルホースになった。有馬記念でのラストランVとオグリコールを経て、笠松での引退式ではオグリが戻ってきて、カサマツトレセン学園時代のトレーナーらと再会する名場面が描かれるかもしれない。シンデレラストーリーの新たな展開とラストシーンを楽しみにしたい。

浦和、船橋、高知など全国の交流重賞で健闘を続けるナラ。「遠征アイドル」として深沢杏花騎手とのコンビでゼッケンも人気だ(船橋競馬提供)

■ナラ騎乗の深沢騎手「あんなタフな馬いないですよ」

 盛り上がった4月のウマ娘シンデレラグレイ賞。雨の中、深沢騎手が騎乗して、勝利を飾ったヤマニンカホン。その後は2着、3着だったが、6月14日には3戦ぶりに勝利。深沢騎手の積極策に応えて7馬身差の逃げ切り。また雨だったが「全てうまく乗れました。いつものように暴走されずに、ちゃんと折り合ってくれて良かったです」と振り返り、翌日も勝利を飾った深沢騎手。笠松では前開催から3日間連続Vで好調である。

 地方競馬ファンの間では、ゼッケンも人気のナラ。14日のレースでは好位から粘っていたが4着。「せっかくいい位置が取れたのに、外から早めに来られて競馬がしづらかったです。そんなに成績を出していないですし、あんまり調子が良くないです」と深沢騎手。毎週のように走っていて5月には4回も出走。かしわ記念(船橋)から中4日、笠松のレースでは勝利を挙げた。「C級のレースだから勝てただけで、もう年だし、(上のクラスでは)疲れているんで厳しいと思います」と体調面では心配そうだ。

 かつてのトウホクビジンやタッチデュールのように、笠松のほか全国の交流重賞に挑む日々。「遠征アイドル」として、南関東などで人気が高い。深沢騎手は「ナラの調教もしていますし、(レースでも)ありがたく乗せてもらっていますが、あんなタフな馬いないですよ」と頑張りを人馬一体でサポート。ナラとのコンビでは1勝、2着1回だが、笠松の「鉄の女」との戦いは今後も続きそうだ。大切に乗って、頑張る姿を見せて、これからも全国のファンを楽しませてほしい。

愛馬会メンバーが笠松競馬場内で始めた競馬グッズ販売=2006年5月

■グッズ販売は2006年から、競馬場再建のため協力

 愛馬会の笠松競馬場内での競馬グッズ販売は2006年に始まった。当時、現場は競馬場存続を勝ち取ったが、経費は約7億円削減された。馬主・厩舎関係者らへの賞金・手当の大幅カットによるもので、厳しい経営状況は変わらず。「1年ごとの試験的な存続」で、「単年度赤字=即廃止」という厳しい条件付きだった。

 後藤さんら愛馬会メンバーは「関係者は競馬場再建のために努力している。私たちも知らん顔はできない」と協力に意欲。グッズは、オグリキャップの2代目馬主だった名古屋市の会社社長から寄贈された。GⅠ優勝馬のぬいぐるみや、オグリをかたどった携帯ストラップなど約4万点。東門近くに売店を常設し、売り場にメンバーが立った。定価の半値ということもあって女性や子どもにも人気が高かった。「売り上げを賞金に反映して、少しでも厩舎を盛り上げることができれば」と競馬場の再生に努めてきた。

■軽トラ市から、また常設店に

 不祥事の「逆風」に何度もさらされてきた笠松競馬だが、競馬組合や厩舎関係者の再生への努力とともに、公正競馬を徹底。「クリーン度100%」に努め、ウマ娘コラボレースも年1回程度は開催されるだろうし、競馬場復興へようやく「追い風」も吹いてきた。2004年に存廃問題が浮上してから、笠松競馬が廃止にならずにレースが続けれているのは、熱いファンの後押しを受けた愛馬会のサポートのおかげでもある。

 もう競馬場内での愛馬会の営業は難しいだろうが、正門前では「軽トラ市」がスタートした。「オグリキャップの聖地」としてのブランド力は、全国の競馬場の中でもずば抜けている。いずれは正門近くで愛馬会売店を「常設店」として復活させてもらい、ウマ娘ファンやオールドファンの期待に応えていきたい。