4月、地方通算400勝達成セレモニーで祝福を受けた渡辺竜也騎手。5月の不振を脱して、前開催は自己最多の14勝を飾った(笠松競馬提供)

 笠松競馬のリーディングトップを走る渡辺竜也騎手(22)。4月末から5月にかけては「45レース連続勝利なし」を経験するなど調子を落としていたが、東海ダービー(イイネイイネイイネで2着)での惜敗を生かし、6月の飛山濃水シリーズでは一気に14勝を挙げて本領を発揮した。

 V字をデザインした勝負服での勇姿とともに1着ゴールを量産。上昇気流に乗って3日連続で4勝を飾る大爆発で「V字回復」を果たし、ファンを安心させた。1開催14勝は自己最多で、完全復活を印象づけた。

■急に勝てなくなり、まさかの「低空飛行」

 渡辺騎手は今年1月末、左腕骨折の大けがから約3カ月ぶりに復帰。開催別に7勝、11勝、12勝、10勝と「2桁」を連発するなど順調に勝利を積み重ねていた。ところが4月の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」開催デーから、なぜか急に勝てなくなり、開催ごとに4勝、2勝、2勝とまさかの「低空飛行」が続いていた。

 「何でこんなに勝てないのだろうか」と渡辺騎手はもがいていた。他の騎手からしたら、ぜいたくな悩みではあるが、6月初め「こんな時もありますよ。そんなに悪い競馬はしてないんですが、不調に終止符を打ちたいです。きょうも1Rで勝って、いけると思ったんですが、終わってみれば1勝だけでした。期待して応援してくださるファンに申し訳ないです。リーディングも気にしつつ、頑張りたい」と巻き返しに燃えていた。

東海ダービーで、パドックを周回するイイネイイネイイネと渡辺騎手

■直線が長くなった弥富での騎乗も影響か

 渡辺騎手のリズムを狂わせたのは、弥富市に移転した名古屋競馬場の新コース騎乗の影響もあったようだ。最後の直線は240メートルで、旧名古屋より46メートルも延びた。名古屋の名手・岡部誠騎手らも、馬場状況に応じたコースの位置取りに苦労して試行錯誤。直線が短かった旧名古屋では順当なレースが多かったが、弥富では波乱が目立ち、高配当も増えている。

 渡辺騎手は「名古屋って、展開が結構ゆっくりなんですよ。内は重たいですし、直線が長い分、笠松と違ってちょっとゆっくりと流しているんですが、でもそれを笠松でもやっちゃうんですよ」とペース配分の面で微妙なずれが生じていたのか。

 また「名古屋の直線は笠松と比べると、割と長く感じます。笠松なら粘りそうな馬でも、止まっちゃうなあとか。名古屋では、積極的に4コーナーで先頭に立てるイメージはないです」とも分析。

 東海公営競馬として、隔週で交互にレースが開催される名古屋と笠松。名古屋の厩舎からも騎乗依頼が多い渡辺騎手だが、笠松でも名古屋と同じような乗り方になって、差し遅れて2着、3着が多くなっていたようだ。

1月、けがから復帰直後に笠松で1日6勝を挙げた渡辺騎手

■「壁があっても、成長しないといけないんで」

 一連の不祥事によるレース自粛、けがによる戦線離脱、コロナ感染のクラスターを経て、笠松競馬の新エースに成長した渡辺騎手。「競馬に対するモチベーションがすごく上がってきて、よし頑張るかと思ったら、パッと勝てなくなりました。不思議ですねえ。いい馬に乗せてもらってるんですが、勝ち方を忘れてしまって」と歯がゆい様子だった。

 5月末からのぎふ清流カップシリーズでは2勝どまりで、3勝の長江慶悟騎手にも負けて、笠松所属の10人(期間限定含め)のうち9位に甘んじた。

 「長江騎手も競馬を覚えてきましたね。(後輩の)若手が目立つのもいいですけど、やっぱり自分が勝ちたいですし、一番目立ちたいです。もちろんいつも全力ですよ。レースでは、あぶみの長さを直したり、いろいろと乗り方を変えたりしているんですが、何か合わないですね。でもそういう壁があって、また勝てるようになりたいです」と意欲。今回の試練は、ワンランク上がるためのステップであり、それを乗り越えて、今後何十年もやっていかなきゃいけない笠松の若きエース。「まだ成長しないといけないんで。けがなく、調子が悪い時期を乗り切りたいですね」と前を向いていた。
          

6月15日の最終レースをエールゴージューンで制し、1日4勝を飾った渡辺騎手

■JRA交流、岡部騎手に勝って「ダービーの借りを返した」

 前開催初日は梅雨空だったが、渡辺騎手はスカッとゴールを突き抜けて1日4勝。前半で3連勝を飾った後、JRA交流戦の根尾川特別(A3組、中央1勝クラス)でも勝利。笠松の騎手は乗ることが少なかった中央馬に騎乗。3番人気・レッドロムルス(牡4歳、辻野泰之厩舎)で、岡部誠騎手騎乗の1番人気・アイリスクォーツを差し切った。最後の直線、2頭でのたたき合いは、東海ダービーを思い起こさせる好勝負だった。

 JRA交流戦で岡部騎手に勝ったこともあって「ダービーの借りを返しましたし、きょうは四つ勝たせてもらいました」とうれしそうな渡辺騎手。1月の復帰直後には、自己最高の1日6勝を飾ったこともあったが、やっと渡辺騎手らしさが戻ってきた。1カ月ぶりの「マルチ勝利」に内心ホッとしたことだろう。

 もやもやを一掃できたのは、東海ダービーでの大きな経験があった。笠松現役では藤原幹生騎手に続く2人目のダービージョッキーの座には、アタマ差で届かなかったが、イイネイイネイイネで挑んだ大一番で得たものは大きかった。

■「ダービーで学んだことを生かして」

 東海ダービーで2着に敗れた直後は悔しさいっぱい。「あれはショックでしたよ。かなり気持ちを入れて、あそこまで持っていったつもりでしたが。4コーナーまで落ち着いて乗れたんですけど、そこから僕が焦っちゃって歯車が狂っちゃっいましたね」

東海ダービーでは、タニノタビトにアタマ差及ばなかったイイネイイネイイネ。惜敗したが、渡辺騎手にとっては成長への大きな糧にもなった

 「でも東海ダービーでかなり学んだことがあって、それを笠松でも生かしています。ダービーでの失敗も、きょうのJRA交流に生かせましたしね。焦らずに行って」と。岡部騎手騎乗の逃げ馬との一騎打ちを制してくれて、馬券も買って応援する地元ファンにとっても痛快なレースとなった。

 「ダービーは最高の騎乗だったと思うよ」とファンも心を躍らせた名勝負をたたえると、「そう言っていただけると、すごく励みになります。強い馬に乗せてもらっているんで、もっといい結果を出していかないとね。また頑張ります」と。

 渡辺騎手はやはり2、3番手につけて、3~4コーナーからまくっていく競馬が得意で、好結果を残してきた。スランプを脱出して、1開催14勝で4割を超える勝率。ダービーでの苦い思いを生かして、渡辺流の「勝利の方程式」が確かなものになりつつあり、固め勝ちも望めるようになってきた。

 JRA交流戦での騎乗については、昨年、南関東で期間限定騎乗の予定(自粛)もあったことから、親交のある浦和のエージェントさんに声を掛けてもらったそうだ。中央馬で勝てば賞金は650万円で、重賞並みかそれ以上だし、「やっぱり賞金もいいことだし、どんどん勝っていきたいです」と。翌日の交流戦でも中央馬に騎乗し3着だった。

■新エースとして、けがなく通年で活躍を

 新馬戦がスタートし、夏競馬も本格化。東海ダービー馬タニノタビト(角田輝也厩舎)が、東海3冠レース最後の1冠である岐阜金賞(8月25日)にも参戦してくれたら、渡辺騎手は「笠松で地元なんで。ダービーのような、あんな競馬はさせないようにしたい」と東海3冠阻止へ、やり返す覚悟である。一方の名古屋・角田陣営としても、4年前の岐阜金賞ではサムライドライブで2着に敗れており、リベンジを果たしたい一戦でもある。

 渡辺騎手は2日目、3日目も4勝を挙げた。「完全復活だね、安心して見ていられるよ」と声を掛けると「まだまだです。(勝てずに)ちょっと休んでいましたから。今回、馬の巡り合わせがすごくいいです。やっぱり流れってありますから。うまくいき過ぎで、今度調子が落ちるのが怖いですね。勝ち続けることが信頼できるリーディングだと思いますよ」と。23日の名古屋重賞・トリトン争覇では、9番人気・スタンサンセイ(笹野博司厩舎)で後方から3着に突っ込み、好騎乗を見せた。

 デビューから6年目の今年。笠松リーディング争いでは、渡辺騎手が62勝で、松本剛志騎手が47勝、岡部誠騎手が45勝で続く。けがさえなければ、渡辺騎手が初めてリーディングを獲得する可能性は高い。不振を脱して、28日からのアルペンシリーズではどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。新エースとして、より安定感を高めて通年で活躍してほしい。

飛山濃水杯を制覇した兵庫のゼットパールと岡部誠騎手(左)ら喜びの関係者

■飛山濃水杯、兵庫のゼットパール(岡部騎手)がVさらう

 16日の「飛山濃水杯」(SPⅢ、1400メートル)は兵庫のゼットパール(牝8歳、田中一巧厩舎)がVをさらった。岡部騎手の騎乗で1番人気。ファンの期待に応えて、2番手から抜け出して、後続に3馬身差で完勝した。笠松のインシュラー(森山英雄厩舎)が地元の意地を見せて2着、ニホンピロヘンソン(川嶋弘吉厩舎)も3着に食い込んだ。

 ゼットパールはJRA交流戦を勝った勢いで期待通りの圧勝だった。笠松でも重賞を勝ちまくる岡部騎手は「背中が柔らかくてバネのあるいい馬。内でゴチャゴチャするのは嫌だったんで、すんなり2番手の理想的なポジションに。力を発揮すれば負けることはないと思っていましたし、完璧に走ってくれました。(8歳だが)また大きな重賞も狙ってもらいたいです」と会心の勝利だった。
 
 田中一巧調教師は「馬の状態が良かったんで、岡部騎手に任せました。これからも大事に使っていきたいです」と、月1走のローテーションで活躍を期待していた。

期間限定騎乗で笠松競馬に参戦した18歳の及川烈騎手。オレンジ一色の勝負服で元気いっぱいだ

■期間限定の及川烈騎手、オレンジの新風

 新たな期間限定騎手が6日から笠松競馬場で奮闘している。浦和(長谷川忍厩舎)の及川烈騎手(18)で、8月26日まで後藤正義厩舎に所属し、騎乗技術の向上に努めている。名門厩舎だし、騎手不足の笠松では早くも「移籍も考えて」という先輩の声もあるが、まずは思い切った騎乗でファンに名前を覚えてもらいたい。
 
 既に笠松で4日間騎乗。3日目には9番人気の馬で3着、7番人気の馬で2着と好騎乗を見せた。初日の雨の中、歓迎セレモニーも開かれ、東川慎騎手、長江慶悟騎手のサポートを受けて「レース感覚やいろいろな技術について学んで、まず一つ勝ちたいです」と意欲を示した。

 埼玉県川口市出身。騎手不足の笠松へ、よくぞ来てくれた。初日のレース終了後、先輩の馬具の手入れをしていた及川騎手に、笠松での意気込みなどを聞いた。

 ―初騎乗はどうでした。1Rはすごい追い込みでもう少しで3着でしたね。
 
 及川騎手「楽しかったです。もうちょっとうまくかみ合ったら、良かったですが、まだまだという感じです。攻め馬には毎朝20頭以上に乗っています」

 ―地方競馬教養センターの頃は、厩舎実習中の調教で転んで左鎖骨を骨折し、デビューが遅れたそうですね。

 「半年ほど休んで、けがをゆっくり治しました。深沢杏花騎手や長江慶悟騎手は教養センターの先輩でした」

 ―勝負服はオレンジ一色ですね。

 「オレンジには誠実性とか向上心という意味があって、そういう気持ちで乗りたいと決めました」

笠松初勝利を目指す及川騎手。レースでは猛烈に追い込んで、ゴール前を盛り上げたい

■「レースでは猛烈に追い込みたいです」

 ―名前の「烈」については。

 「猛烈に生きてほしいという願いを込めて名付けられました。競馬も猛烈にやっていきたいですし、レースでは猛烈に追い込みたいですね」

 ―浦和でデビューして2カ月ですが、笠松に来たかったそうですね。大井に戻った田中洸多騎手は笠松で13勝でしたが、勝ち星の目標は。

 「乗り鞍が多いこともあって、笠松に来てみたかったです。それぐらい勝ちたいですが、結果的な目標よりも、行動的なものを大切にしたいです。他の馬のレースを何度も見ることによって、馬の特徴をつかむといったことを目標にする方が好きです。それが結果につながればいいです」

 ―ジョッキーを目指したきっかけは。

 「中学の頃は部活でテニスをやっていました。馬に乗ったことはなかったですが、小柄なことを生かしたかったし、動物が好きだったので」

 ―いきなり地方競馬教養センターに合格したんだね。

 「(運動能力を検査する)体力試験では、いい点が取れました」

 ―浦和でのデビュー初勝利はどうでした。
 
  「(ガンコチャンという馬で)800メートル戦で勝てました。これで安心しましたね」

 ★4月28日、デビューして14戦目。軽量を生かして、好位から直線で鮮やかに抜け出しての勝利。ガンコチャンは馬名のイメージとは違っていて「頑固でなくて、すごく素直で乗りやすい馬」だったそうだ。

 ■「まずは笠松での初勝利を飾りたい」

 ―笠松でも、初勝利を挙げられるといいね。

 「浦和以外でも乗せてもらいましたが、南関東だと全然勝てないんで、いまは自信がないんですけど。まずは笠松での初勝利を飾りたいです」

 ―浦和での「ジョッキーズチャンピオンシップ」では岡部誠騎手や藤原幹生騎手が騎乗して総合Vと2位でしたが。

 「岡部さんとは名刺やラインも交換しましたし、(所属厩舎の先輩である)藤原さんにも会えました。笠松の先輩騎手の皆さんとも仲良くしていただいています。(厩舎の先輩)東川慎さんは、めっちゃ優しくてよく面倒を見てくれます」

 ―2日目はどうでしたか。コース慣れが必要でしょうが。

 「なかなか難しいですね。でも楽しいです。まだまだですけど、焦っても仕方がないんで。結果よりも自分の内面を見ていきたいです。いろいろと勉強になりますね」

 ★まだ18歳の及川騎手。名門・後藤正義厩舎に所属し、そのうちいい馬にも乗せてもらえることだろう。3日目には穴馬で追い込んだ2、3着があって、馬券にも絡んだ。「いろいろと覚えることがいっぱいだろうが、一つ一つの積み重ねなんで、まずはしっかり食べて、しっかり寝て、またあした頑張って」と声を掛けた。騎手不足の笠松では騎乗機会にも恵まれるだろうし、新天地で何かをつかんで大きく羽ばたいてほしい。