2005年4月、復興の救世主として笠松競馬場に里帰りしたオグリキャップ

 3月27日はオグリキャップの誕生日だ。1985年生まれで、永遠に語り継がれるスーパーホースの「39回目」の記念日である。

 有馬記念Vでの「オグリコール」とともにレジェンドホースとなった国民的ヒーロー。その活躍ぶりを追った漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」は長期連載となり、若い世代のファンも魅了し、オグリは時を超えて輝きを増し続けている。

 そんな名馬を生んだ聖地・笠松競馬場。新年度の重賞競走が発表された。4月27日に開催されるオグリキャップ記念(地方全国交流、SPⅠ、2500メートル)の1着賞金は1200万円から2000万円に大幅アップ。ファンの間でも「すごい、ダートグレード競走に復帰できるのか」「モチベーションが上がりそう」と注目を集めている。

笠松競馬場正門前の桜並木

 ■好調な馬券販売に支えられて

 24日で本年度の全日程を無事終了した笠松競馬。春本番の陽気で、周辺の桜並木は見ごろを迎えた。インターネット販売が威力を発揮して、地方競馬全体の馬券販売は好調さをキープ。一連の不祥事から「新生・笠松競馬」として復興元年を迎え、放馬事故などはあったが、何とか乗り切ることができた。競馬組合、馬主、厩舎関係者、応援するファンら笠松競馬に関わる全てのホースマンが強い気持ちで立ち上がって、一丸でサポート。「最後まで諦めない」オグリキャップ精神が息づき、現場の底力が発揮された一年となった。

 本年度、笠松競馬の馬券発売額は過去最高に迫る約427億円。1日平均でも約4億3000万円で前年度比で7%増。不祥事でレースが8カ月間も中止され、巨額赤字となった21年度に比べれば倍増となり、2年ぶりの黒字を確保できた。オグリキャップ記念の賞金増額や重賞レースの新設は好調な馬券販売に支えられてのものだ。

岡部誠騎手(右)がトーセンブルで制覇した昨年のオグリキャップ記念 

 ■名古屋大賞典の開催日、1日で14億円超え

 3月16日には名古屋競馬場で、地方・中央交流のダートグレード「名古屋大賞典」(JpnⅢ)が開催され、川田将雅騎手騎乗のハギノアレグリアス(四位洋文厩舎)が重賞初Vを飾った。この日の名古屋競馬の馬券販売は何と14億円超え。弥富に昨春移転し「ベイサイドナイター」でも10億円超はあったが、中央競馬のファンも注目するダートグレードの威力は絶大となった。

 笠松競馬の看板レースであるオグリキャップ記念は1992年に創設され、今年で第32回となる。昨年は船橋のトーセンブルが制覇した。騎乗した岡部誠騎手は自身5度目の優勝で「ミスター・オグリキャップ記念」と呼ばせてもらった。97年から2004年まではダートグレードのGⅡに格付けされ、1着賞金は4000万円だった。経営難で地方交流に格下げされたため、全国の地方競馬でダートグレードがないのは笠松だけという寂しい事態が続いている。

記者ノートで「グレード競走の復活を」と伝える岐阜新聞の記事(2012年2月10日付)

 ■記者ノートで「グレード競走復活を」提言

 出版した「オグリの里・聖地編」でも「笠松にダートグレード競走復活を願う」のページで提言。11年前、岐阜新聞海津支局にいた頃、本紙の記者ノートに「グレード競走の復活を」と題した記事を出稿していた。

 地方・中央馬が激突するダートグレードへの復帰を待ち望む声は高まりつつあり、オグリキャップファンの悲願でもある。

 ■地方・中央の壁を超越した走りでファンを魅了

 ダートグレード時代には、ハカタビッグワンやミツアキタービンらが中央勢を圧倒した年もあった。現在では、強いJRA勢にVをさらわれるよりは「地方競馬のスタミナ自慢だけで競う良さもある」といった声はあるが、地方・中央の壁を超越した走りでファンを魅了したのがオグリキャップ。その存在意義からしても「地方・中央」という枠組みを取っ払ったダートグレードへの復帰は必然であり、近い将来必ず実現すると信じている。

2007年のオグリキャップ記念には芦毛馬・ミツアキタービン(5着)も出走した

 ■競馬組合も「寂しいことで、せめて一つは」

 ダートグレードへの格付けには、一定の賞金額とレースレーティング(上位4頭の馬のレーティングの平均値)が必要になる。レーティングとは競走馬の能力を示す指標を数値化したもの。ダートグレード競走格付け委員会が、各主催者によるダートグレード申請を審査する。
 
 競馬組合ではオグリキャップ記念について「主催者として、将来的にはダートグレード競走となるよう前向きに取り組んでいきたい」とのことだ。全国でも笠松だけダートグレードがないことは「寂しいことで、せめて一つは」と現場の思いは強い。今後はレースレーティングが一番のネックにもなるが、今回の賞金アップで、全国から強い馬が集結することにもなる。組合では「相乗効果になって(格付けへの)ステップになれば」と期待。ただ、NARだけでなくJRAの許可も必要になり、今後はダートグレードの体系整備も実施されることから、その行方次第という面もある。オグリキャップ記念がダートグレードに復帰すれば、JRAの有力馬や人気騎手も参戦するだろうし、中央競馬ファンの注目度も高まり、馬券が売れることになる。

 古馬のダートグレード(JpnⅢ)では、昇格条件は1着賞金が2100万円以上。レースレーティングが105以上が基準となる。オグリキャップ記念は1着賞金が2000万円になるということで、賞金ラインにも大きく近づいた。あとは高額賞金ゲットを狙って、全国から強豪が参戦してくれれば、レース自体のレーティングもアップし、格付け条件をクリアできるだろう。笠松だけダートグレードがゼロなのは、やはり情けないことで、関係者の努力で早期復帰が望まれる。 

マーチカップは岡部誠騎手騎乗のロッキーブレイヴが制覇した(笠松競馬提供)

 ■トライアルのマーチカップはロッキーブレイヴV

 オグリキャップ記念トライアルのマーチカップ(1900メートル、SPⅡ)には、笠松重賞勝ちがある5頭、リーディング経験がある騎手5人が参戦した。12~17年に休止されたが、18年から看板レースのトライアルとして復活。以前は岐阜放送杯として開催されていた春の名物レースで、ハイレベルな戦いとなった。

 レースは名古屋のロッキーブレイヴ(牡5歳、竹下直人厩舎)が制覇。岡部誠騎手の騎乗で、逃げたコスモバレット(牡8歳、石橋満厩舎)=山本咲希到騎手=を3~4番手から追走。4コーナーでは先頭を奪うと、後続を寄せ付けずに完勝した。

 2着、3着争いは3頭がハナ、ハナ差で大接戦。「笠松の大将」ウインハピネス(牡8歳、森山英雄厩舎)=大原浩司騎手=が大外から2着に突っ込み、地元勢の意地を見せた。3コーナーでは後方2番手だったが、大原騎手のアクションに応えて豪快に追い込んだ。笠松では24戦連続でオール3着以内。応援するファンの信頼に応える素晴らしい走りを見せている。

 3着にはナムラマホーホ(牡6歳、藤ケ崎一人厩舎)が食い込み、騎乗した宮下瞳騎手が好騎乗を見せてくれた。1100勝超えのママさんジョッキーで、前日には笠松で久しぶりの勝利を飾った。栗本陽一調教師の地方通算300勝達成と重なり、記念撮影にもⅤサインで笑顔を見せていた。

 地元のイネイイネイイネ=渡辺竜也騎手=は5着、金沢からの1番人気・トランスナショナル=吉原寛人騎手=は7着、兵庫のテーオーエナジー=田中学騎手=は9着に終わった。

ロッキーブレイヴでマーチカップを制覇した岡部誠騎手(左)ら喜びの関係者

 ■岡部騎手「早めに動いて」会心の勝利

 レース後、岡部騎手はロッキーブレイヴについて「前走(ウインター争覇V)が良かったし、笠松の走りは特にいい。最後はダラダラなんだけど、かわされない自信があった。ためて乗って負けるよりはいいと、早め早めに動いた。跳びの大きな馬だし、雨が降ってどうかと思ったが、それも克服してくれました」と会心の勝利を喜んでいた。

 ■竹下調教師「次はオグリキャップ記念」

 竹下調教師は「次はオグリキャップ記念の予定だけど、ジョッキーにはタニノタビトもいるからねえ。騎乗はその兼ね合い次第かな。こっちの方がいいと思うがね」と。タニノタビトは東海3冠馬ではあるが、岐阜金賞以来、1年半も勝っていない。それなら笠松重賞2連勝で順調なロッキーブレイヴの方が力上位ともいえそうだ。1カ月後には、全国から今まで以上の強豪が集結しそうで、フルゲート(12頭)での熱戦が期待できる。

 表彰式は雨天のため室内で行われたが、この場合はいつも優勝騎手インタビューがない。来場できないファンの大半はネット越しで観戦しているのだから、せめて喜びの声(音声)だけでもライブ中継やホームページでアップできるといい。外では、優勝騎手を一目でいいから見たいと帰りを待っているファンの姿もちらほら。重賞を勝った騎手の声が全くないのはおかしなことで、何とかしてほしいものだ。
 

笠松で久々の勝利を飾った宮下瞳騎手。マーチカップではナムラマホーホに騎乗し3着と健闘した

 ■2歳戦「ネクストスター笠松」は1着1000万円

 笠松では、新たな重賞として4レースが誕生する。2歳戦「ネクストスター笠松」は1着賞金1000万円で、笠松所属馬限定。近年は道営で頭打ちの2歳馬が笠松などに移籍してくるパターンも多いが、これまで以上に生え抜き馬に力を入れることになる。オーナーや厩舎サイドも新馬戦からネクストスター誕生を目指して、10月の大一番に挑むことになる。

 【新たな重賞】
 ☆撫子争覇(SPⅢ)=8月3日、3歳以上牝馬=秋桜賞トライアル
 ☆ネクストスター笠松=10月12日、2歳(笠松所属馬限定)=重賞級認定競走、未来優駿
 ☆ブルーリボンマイル(SPⅠ)、3月5日=4歳以上牝馬
 ☆ジュニアグローリー(SPⅢ)、3月7日=3歳

 準重賞では、ブルームカップなど3レースが新設される。

【新たな準重賞】
 ☆ブルームカップ=7月20日、3歳=岐阜金賞トライアル
 ☆東海クラウン=10月27日、3歳以上=笠松グランプリトライアル
 ☆笠松若駒杯1月11日、3歳=笠松デビュー馬限定

 ■1着賞金はC級で最低40万円に、A級1組は200万円に

 4月からは重賞以外の一般のレース賞金や手当もアップする。1着賞金はC級で最低30万円から40万円に、A級1組(オープン)では170万円から200万円に増額される。
 
 競走馬の出走手当はA級が8万1000円から10万円に、B級が7万5000円から9万円に、C級は6万9000円から8万円にアップする。騎手、調教師、厩務員らへの手当は1頭につき7500円から7800円に増額される。

笠松競馬場内で行われた「オグリの里・聖地編」即売会

 ■「オグリの里」即売中に、WBC準決勝で日本逆転サヨナラ

 野球のWBC準決勝の日本―メキシコ戦があった21日。試合中に笠松競馬場内で「オグリの里・聖地編」の即売会も行った。場外で馬主さんから「日本が同点に追いついた」という情報が入り、場内では日本の逆転サヨナラ勝ちに大喜びする競馬ファンの姿もあった。「試合が終わったら、笠松競馬場へ」と期待していたが、午後から雨が降り始め、今回も天気予報は外れてしまった。

 ■にぎわった「ウマ娘シンデレラグレイ賞」

 昨年4月末、オグリキャップ記念の翌日には芦毛馬限定「ウマ娘シンデレラグレイ賞」が開催され、若者ら約5000人が来場した。コラボレースは今年も「第2回」開催が見込まれており、レースやイベントで盛り上がりそうだ。聖地巡礼で訪れるウマ娘ファンたちは、場内でどんな景色と遭遇することができるのか。オグリキャップの聖地・笠松競馬場ならでは。1カ月後の熱狂ぶりが今から楽しみだ。