時代は平成から令和へと流れ、全国の地方競馬場は半減したが、現場の底力で荒波を乗り切って生き残った笠松競馬。一歩一歩、復興へと進み、競走馬やジョッキーたちは輝きを増し、かつての勢いを取り戻しつつある。 

 大みそかまで行われた年末特別シリーズは多くのファンでにぎわい、東海ゴールドカップは笠松のニューホープ(田口輝彦厩舎)が優勝を飾った。昨年はストーミーワンダーが重賞5勝、筒井勇介騎手が初めてのリーディングを獲得、渡辺竜也騎手はNARグランプリの優秀新人賞を受賞。笠松勢の重賞Vが増え、全国レベルでの飛躍も目立った。「オグリの里2019十大ニュース」として人馬の活躍を振り返った。

①ストーミーワンダー重賞5勝、カツゲキキトキト倒す

 「強豪を次々撃破、笠松の大将だ」。1月の白銀争覇を制覇し重賞初V。夏から快進撃が始まり、飛山濃水杯、くろゆり賞、遠征先での金沢スプリントC(金沢)、姫山菊花賞(園田)を含めて重賞を5勝。くろゆり賞では、東海地区最強馬のカツゲキキトキトを一気に抜き去る強い競馬。「キトキトに並んで、早めでも手応えがあり、勝てると思いました」と渡辺騎手。姫山菊花賞でもロングスパートを決めてタガノゴールドを圧倒。馬名の通り「嵐のような驚き」の走りを見せてくれ、「笠松にストーミーワンダーあり」をアピール。各地のエース格を次々と倒し、全国区の強豪馬になった。佐藤友則騎手で2勝、渡辺騎手で3勝。1600メートル戦に強く8連勝。新年は笠松のスターホースとして、JRA馬と戦うダートグレード競走でも嵐を巻き起こしたい。

②筒井騎手、初めてのリーディング

 「今年の目標でした、うれしいです」。76勝(6位)、99勝(3位)、120勝(2位)と勝利数&ランキングを年々アップさせ、昨年は124勝。筒井騎手が悲願のリーディングジョッキーの座を獲得し、満面の笑み。2位は渡辺騎手で93勝。3年連続リーディングだった佐藤騎手は、南関東への期間限定騎乗やけがで休んだ影響もあり、90勝に終わった。筒井騎手は、一時は渡辺騎手の猛追を受け、「勢いがあったから、ひやひやしたし、やばいなと思っていた」そうだが、気合を入れて年末にかけてラストスパート。渡辺騎手を一気に突き放した。プレッシャーに負けた前年の悔しい経験を糧にして、順調に勝ち星を積み重ね、ジョッキーとして最高の栄誉に輝いた。「これからも、けがなどせずに」と体調管理を第一に、こつこつと勝利を積み重ねていく構えだ。リーディングトレーナーは、148勝を挙げた笹野博司調教師が4年連続で獲得。全国リーディングでも5位と躍進を続けている。

③渡辺騎手にNARグランプリ優秀新人賞、重賞3勝

 「笠松所属ジョッキーで史上初の快挙」。デビュー2年目で64勝を挙げた渡辺騎手が、地方競馬全国協会の「NARグランプリ2018」優秀新人騎手賞を受賞した。地方競馬とJRAの若手騎手が腕を競うヤングジョッキーズシリーズでの2年連続ファイナル進出も評価を受けた。「大事なレースやいい馬にたくさん乗せてもらえ、技術面でも向上し、1年前と比べて成長できた」と喜びを語った。ストーミーワンダーでは、新設された「飛山濃水杯」で重賞初Vを飾ると、くろゆり賞と姫山菊花賞も勝ち、重賞を3勝。レース直後には、愛馬のたてがみを何度も優しくなでて、歓喜に浸っていた。笠松のレースでは2日間で9勝する爆発力があり、名古屋でも1年間に17勝を挙げ、地方通算200勝を突破。まだ19歳。将来のリーディング候補として、より信頼されるジョッキーへと日々精進している。

④佐藤騎手、ジャパンジョッキーズCで個人総合V (7月)

「友さん、来たー!」。武豊、森泰斗ら中央、地方のトップジョッキーによるチーム対抗戦「ジャパンジョッキーズカップ」(盛岡)で、佐藤騎手が2勝を挙げて、チームWESTの優勝に大きく貢献。個人総合Vも飾って優秀騎手賞を受賞。笠松のジョッキーのレベルの高さを、全国にアピールした。第1戦が10番人気で4着、第2、第3戦がともに6番人気だったが、鮮やかな差し切りで2連勝。史上最高の51ポイントを獲得しての個人総合Vで、表彰式でも「やったよ」と喜びを爆発させた。生え抜き馬フォアフロント(井上孝彦厩舎)では、ぎふ清流カップ制覇、東海ダービー3着、西日本ダービー(高知)で2着。2カ月間の南関東遠征では9勝を挙げており、全国の重賞戦線に狙いを定めている。各地で勝利を挙げ、また表彰台で「ここの競馬場が日本で一番好きです」の決めぜりふを聞かせてほしい。

⑤笠松の厩舎で放馬事故、1開催自粛 (6月)

 「赤信号点滅」。6月12日午前、笠松競馬の円城寺厩舎内で、放牧から戻る途中の4歳牡馬が放馬、脱走し、住宅地を駆け抜けた。ごみ収集車のエンジン音に驚いて暴れだし、厩務員が握っていた手綱を切って逃げた。走行距離は約1500メートル。JR東海道線の踏切を渡り、国道22号西の田んぼで厩務員に確保された。上空をヘリが飛び、防犯カメラの映像などで夕方のニュースでも大きく取り上げられた。笠松競馬では事故を重く受け止め、アルプスシリーズ(4日間)の開催を自粛した。2013年10月には、競走馬脱走による軽乗用車の運転者死亡事故が発生しているが、再発防止対策が生かされなかった。再び大きな衝突事故などが起きれば、競馬場自体の存続が問われることになる。今後も事故防止訓練を継続し、安全管理を徹底。競馬場関係者や近隣住民が再発防止のための情報を共有して、危機管理意識を高めていきたい。

⑥ニューホープ、岐阜金賞と東海ゴールドカップ制覇

 「大みそか、ハッピーエンド」。大一番・東海ゴールドカップを制覇したのは、丸野勝虎騎手が騎乗したニューホープ(牡3歳)だった。本命候補の出走回避、取り消しも相次いだが、岐阜金賞を勝った地元馬が意地を見せてくれた。県馬主会副会長の吉田勝利オーナーや厩舎スタッフ一丸となっての栄冠。スタンドやらち沿いに詰め掛けた大勢のファンの前で、令和元年のラストを華々しく飾り、歓喜の輪が広がった。岐阜金賞では佐藤騎手騎乗で、吉田オーナーに地元・笠松でのうれしい重賞初Vをプレゼント。佐藤騎手は「笠松の重賞を勝ちたい気持ちをよく知っていたので」と笑顔。盛岡・ダービーグランプリでも5着健闘。北海道、岩手、笠松、金沢と在籍した各地で好成績を残し、JRAのレースにも挑戦。4歳を迎え、各地の重賞での活躍が期待できる。

⑦藤田菜七子騎手、笠松で初騎乗 (3月)

 「運命的な出会い」。小学5年生の頃、高速道路を走る馬運車「オグリキャップ号」を見たことをきっかけに憬れを抱くようになり、競馬の世界に入った藤田菜七子騎手。 デビューから3年、「騎乗依頼を頂き、うれしかった。笠松で乗れて良かったです」。参戦可能な地方競馬場では笠松がラストとなり、「全場制覇」が実現した。コパノキッキングと同じ栗東・村山明厩舎の3歳牝馬・ヒマリチャンに騎乗。菜七子騎手が登場すると、スタンドや外らち沿いでは、詰め掛けたファンがカメラの放列。「菜七子ちゃん、頑張って」と熱い声援が飛び交った。積極果敢なレース運びを見せたが5着に終わり、レース後は悔しそうな表情。笠松の印象については「パドックが内馬場にあったり、ゲート近くを電車が通ったりして驚きました」とも。笠松では女性ジョッキーを目指す候補生2人も受け入れ。関本玲花騎手(岩手でデビュー、笠松でも期間限定騎乗へ)と、深澤杏花騎手候補生(4月デビュー予定)で、競馬場内で攻め馬などの実習に励んだ。

⑧オグリキャップ記念をカツゲキキトキト制覇 (4月)

 「ありがとうオグリキャップ」。平成最後のオグリキャップ記念は、東海公営の絶対王者で笠松競馬出身のカツゲキキトキト(錦見勇夫厩舎)が、2年ぶり2度目の優勝を飾った。ゴール前では「みんな頑張れー」と温かいファンの声援が飛んだ。経営難による競馬場廃止のピンチを救ってくれたオグリキャップへの感謝の気持ちが込められていたようにも感じられた。カツゲキキトキトは、大畑雅章騎手の鮮やかな手綱さばきに応えて快走。 馬主の野々垣陽介さんは、亡くなられた父・正義さんの遺影を胸に抱えて表彰式へ。「笠松でデビューし、父が見守ってくれて、きょうも勝たせてくれました。感謝しかないです」と話し、笠松ファンの後押しも感じているようだった。カツゲキキトキトは、地方重賞19個目のタイトルとなった。

⑨水野騎手、マカオで重賞V (6月)

 「海外で大きく羽ばたいた」。22歳の水野翔騎手が「燃えてます、勝ちたいです」の言葉通りのナイスファイトを見せて、マカオで重賞初Vをゲット。笠松仕込みの逃げ切りを華麗に決めた。おしゃれな「派手髪」でも熱い視線を浴びながら、大ブレークとなった。北海道から笠松に移籍し2年目。3カ月間の短期免許で挑戦したマカオのタイパ競馬場。わずか7戦目で迎えた重賞「サマートロフィー」(G2)でマカオ初勝利を飾り、ファンや関係者を驚かせた。7番人気のファスバに騎乗し、最後の直線では後続を突き放してゴール。重賞初Vが笠松でなくマカオというのが、水野騎手らしい。「マイペースで逃げる作戦でしたが、まさかG2を勝てるとは思っていませんでした」と本人もびっくり。笠松ではリーディング7位の65勝。大みそかにはマサノビジョンで地方通算200勝も達成した。令和2年も勝負強さを発揮していきたい。

⑩12頭立てレースがスタート (9月)

 「より迫力あるレースが楽しめる」。ファンの熱視線を浴びながら、待望の12頭立てレースが笠松競馬でもスタート。これまでフルゲート10頭立てだったが、装い一新。初戦は1400メートル戦で実施。笹野調教師は「1コーナーでの攻防が勝敗を分けそう」と注目していたが、外枠勢が前へとダッシュ。快調に逃げていた先行馬がゴール前で息切れ。伏兵馬が豪快に差し切り、見応えのある好レースになった。「外から内への切れ込み具合など、展開がいつもとちょっと違って面白かった」とファンにも好評。11月の笠松グランプリも12頭立てで行われ、大外12番ゲートから高知のケイマ(牡6歳)永森大智騎手の騎乗でVをさらった。1900メートル戦の東海ゴールドCや、2500メートル戦のオグリキャップ記念でも12頭立てが可能になった。

【次点】東川慎騎手、デビュー日にメインV (4月)

 「むちゃくちゃ、うれしいです」。羽島郡岐南町出身の18歳・東川慎騎手が鮮烈デビュー。新年度初日のメインレース「淡墨桜特別」でバレンティーノ(尾島徹厩舎)に騎乗。いきなり初勝利を飾った。ファンや厩舎関係者も驚かせる会心のレース運びで、1番人気馬を一まくり。駆け付けた家族らの歓声が上がった。「勝っちゃったよ」。胸を張って戻ってきたルーキーを、父である東川公則騎手や尾島調教師らが出迎え、がっちりと握手。声援を送った東川ファミリーも「良かったね、おめでとう。興奮したよ」と大喜びだった。慎騎手は好スタートを切ったが、7月に落馬骨折で長期休養。1年目は笠松で5勝(名古屋で1勝)に終わった。2年目は心身を鍛えて、飛躍の年にしたい。

【番外】山田敬士騎手、重賞初挑戦の返し馬で放馬 (1月)

 「ゲートイン前に夢と散った」。JRAの山田敬士騎手が、笠松・ゴールドジュニアでエリアントに騎乗予定だったが、返し馬の途中に落馬して放馬。競走除外になったため、中央、地方を含めて初めてとなる重賞挑戦はお預け。デビュー1年目には、新潟6Rで競走距離を1周間違える騎乗ミス。3カ月の騎乗停止処分を受け、中山で復帰したばかりだった。笠松での騎乗馬はパドック前辺りからグングン加速。制御不能になって、第1コーナー奥の装鞍所前も駆け抜けて周回を重ねた。山田騎手にけがはなかったが、暴走する馬をぼう然と見守っていた。「今回は残念でしたが、交流レースでは、また笠松へ来ると思いますので頑張りたい」と闘志。初参戦したパワースポット・笠松での2日間、8頭の騎乗経験を中央のレースに生かし、1年間に8勝。YJSのファイナルにも進出し、総合6位に入る活躍を見せた。